車を走らせながら、今日の予定を頭の中で整理していた。
やることは多い。
でも、どれももう“途中”ではない。
すべてが、届出に向かって繋がっている。
まずは時のかけらへ向かう。
店の前に着くと、いつもより少し早い時間だった。
中に入ると、高梨社長がすでに待っていた。
「お疲れさまです」
いつもの安心させるような笑顔。
その一言で空気が引き締まる。
テーブルの上には、仕入れに関する書類とアクセサリーが並んでいた。
ひとつずつ確認しながら、今回の仕入れを確定させていく。
「今回はいつものに加えて、要望があった若い女性が好む少し安価な品物も揃えてみました」
「いいですね」
必要なやり取りはそれだけだった。
余計な言葉はない。
けれど、確かな前進だけが残る。
確認を終えると、すぐに店を出た。
次は茉莉花へ向かう。
車の中で、携帯を一度だけ見る。
美緒は今、マンションでホームページと書類の最終確認をしているはずだ。
それぞれが、それぞれの場所で同じ方向を見ている。
そう思うと、不思議と落ち着いた。
茉莉花に着くと、早苗がすぐに出てきた。
「おかえり」
「ああ、ただいま」
「コーヒー淹れてくるから、先に二階に行ってて」
早苗は脱いだコートを受け取りながら言う。
リビングからは、女の子たちの声が聞こえる。
私は二階に上がり、座り慣れたソファーに腰を下ろした。
しばらくすると早苗がカップを載せたトレーを持って部屋に入ってきた。
コーヒーを私に手渡し隣に座る。
「これ茉莉花の名刺とか入ってる」
テーブルに紙袋を置く。
中には、里奈ちゃん、綾さん、そして女の子たちの仕事用の名刺。
早苗が自分の名刺を手に取り小さく頷いた。
「いよいよ、始まるって感じだね」
「うん、正式に早苗ママが始まるな」
「もう、からかわないでよ。
今だにママって呼ばれるの慣れてないんだから」
早苗は照れたように少し笑い、私の膝を軽く叩いた。
紙袋からひとつずつ取り出し、確認していく。
その手は、いつもより少し慎重に見えた。
名刺を手に取るたび、頭の中で少しずつ現実になっていく音がした。
そのまま届出の最終確認へ移る。
書類の不備がないか。
記入漏れがないか。
細かい部分をひとつずつ潰していく。
「これで、大丈夫だね」
早苗がそう言ったとき、少しだけ空気が軽くなった。
「だな」
短く返す。
ここも、もう“準備”ではなかった。
確認作業の終わりが、そのまま一歩目になる。
茉莉花を出ると、外はかなり冷えていた。
次は、美緒のマンション。
車を走らせながら、ふと考える。
それぞれが別の場所で動いているのに、同じ一点に向かっている。
届出の日。
すべてが動き出す日まで、もう残りわずかだった。


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