目を覚ますと、カーテンの隙間から朝の光が部屋へ入っていた。
隣を見る。
美緒がまだ眠っている。
長い髪が少し顔にかかっていた。
静かな部屋に、呼吸だけがゆっくりと落ちている。
そっと手を伸ばし、その髪を耳へかけた。
その瞬間、美緒が小さく目を開けた。
「……おはよ」
少し眠そうな声。
「おはよう」
美緒はまだ夢の中の続きみたいな顔で、ゆっくりこちらへ寄ってくる。
「もう朝?」
「ああ」
「もう少し寝たい」
そう言って、腕に抱きついてきた。
柔らかい重みがそのまま残る。
「昨日いっぱい甘えただろ」
「うん……でも、まだ足りない」
思わず息が抜ける。
美緒はそのまま顔を埋めた。
「最近忙しいもん」
「まぁな」
「今日も?」
「ああ」
少しだけ間が空く。
それから美緒は身体を起こした。
「じゃあ頑張らないと」
「ん?」
「届出近いし」
そう言いながら、自然に髪を整えてくる。
その指先がやけにやさしい。
そうだった。
もう時間はそこまで来ている。
キッチンでコーヒーを淹れ、朝の支度を整える。
美緒はマグカップを両手で包みながら、ぽつりと言った。
「なんか変な感じ」
「何が?」
「少し前まで、こんなの考えてなかった」
私は小さく息をついた。
たしかに、そうだった。
気付けば、いくつものことが重なって。
そのまま、ここまで来ていた。
支度を終え、玄関へ向かう。
「じゃあ行ってくる」
「うん」
美緒が一歩近づく。
「頑張って」
軽く抱きつき、頬にキスをする。
私は少し笑う。
「そっちもな」
「うん。いってらっしゃい」
名残惜しそうに、手が少しだけ離れない。
その手を軽く引き寄せて、おでこにキスをした。
美緒は小さく笑って手を振った。
部屋を出て、車へ向かう。
エンジンをかける前の一瞬、静けさが戻る。
そして、キーを回した。
まず向かうのは「時のかけら」。
高梨社長に会うためだ。
少し前まで続いていた準備の時間は、静かに終わろうとしていた。
届出の日は、もうすぐそこまで来ていた。

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