恵美と別れ車に乗る。
エンジンを掛ける前に携帯を見ると、美緒からメールが入っていた。
『今からマンション戻ります』
私は携帯を置き車を走らせた。
マンションへ着くと美緒は先に戻っていた。
部屋へ入ると、いつもの甘いいい匂いと美緒の笑顔に迎えられる。
「おかえり」
「ただいま」
靴を脱ぐと美緒が自然に背後に回りコートを脱がしてくれる。
ソファへ座ると美緒が隣へ来る。
「月下美人はどうだった?」
美緒が月下美人での報告を始める。
「美咲ちゃんピアス買ってくれたよ」
「へぇ」
「あとね、大介さんも彼女さんに買ってた」
美緒は少し嬉しそうに続ける。
「女の子たちも何点か買ってくれたよ。
大介さんと美咲ちゃんには仕入れ値で渡したよ」
みんなが喜んでいたなら、それが何よりだと思った。
そう思っていると、美緒が少し考えるように言った。
「でもね」
「ん?」
「月下美人って若い子も多いから、もう少し安いのもあったらいいかも」
私は少し考える。
たしかに。
今の品物だけじゃ広がりは限られるかもしれない。
私は高梨社長へメールを送った。
携帯を置く。
すると美緒が私を見る。
「終わった?」
「ああ」
「じゃあ今日は仕事終わり」
そう言って美緒が肩へ寄り掛かる。
柔らかい匂いが近付く。
「最近ずっと仕事の話ばっかり」
「そうか?」
「そう」
美緒が少し頬を膨らませる。
私は少し笑った。
美緒が顔を上げる。
気付けば自然と唇が重なっていた。
「……お疲れさま」
小さくそう言った美緒を抱き寄せた。
美緒は抵抗することもなく、そのまま身体を預けてくる。
静かな部屋。
さっきまで頭の中にあった色々なことが少しずつ遠くなる。
「今日は疲れた?」
美緒が胸元へ顔を埋めながら聞く。
「まぁ、少し」
「そっか」
そう言うと美緒が私の服を軽く掴む。
「じゃあ補充しないと」
「補充?」
「充電みたいなもの」
そう言って少し笑う。
私は思わず笑ってしまった。
美緒が顔を上げる。
近い。
長い髪を耳へかける。
目が合う。
また自然と唇が重なった。
今度はさっきより少し長く。
離れると美緒が少し照れたように笑う。
「……最近」
「ん?」
「こういう時間、少なかった」
私は少し考える。
たしかにそうだった。
仕事。
考えること。
やること。
増えていた気がする。
「ちょっと忙しかったからな。ごめん」
そう言うと美緒が首を横へ振る。
「ううん」
そう言って私の腕へ抱きつく。
「今日はいっぱい甘える」
少し上目遣いでそう言われる。
断れる訳がなかった。
私は美緒を抱き寄せる。
部屋の中にはストーブの上のケトルから湯の沸く静かな音が流れていた。
私たちはしばらく、そのまま動かなかった。

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