182話「任せて」

次の日、顔を優しく撫でられて目を覚ますと、美緒の柔らかい笑顔が目の前にあった。

「おはよう」

「ああ、おはよう」

私が体を起こすと、美緒は自然に私の髪をそっと撫でて整える。

「はい、格好よくなったよ」

美緒は少し笑いながら、タオルを手渡す。

「顔洗ってきて、コーヒー淹れるから」

そう言ってキッチンへ向かう。

顔を洗い終えリビングに行くと、コーヒーの良い香りが広がっていた。

ソファーに腰を下ろし、携帯を手に取り画面を見ると弘からメールがきていた。

『お疲れです。時間があるとき連絡ください』

そのまま、弘の番号を表示させ通話ボタンを押す。

「兄貴、お疲れっす」

弘はすぐに出た。

「ああ、何かあったのか?」

「あのっすね、うちの女の子がアクセサリー見たいって言ってるんすよ」

「お前がアクセサリー販売の話を持ちかけたのか?」

「いや、最近、茉莉花の女の子を何回か送迎したんすよ。そのときに、うちの女の子と喋るようになってアクセサリーの話を聞いてるみたいなんすよ」

そのタイミングで、美緒がリビングに入ってきてカップをテーブルに置き隣に座る。

「なるほど。分かった、あとで連絡するから女の子には大丈夫だと言っておいてくれ」

「了解っす!それじゃ連絡待ってるっす」

私はそのまま隣に座っている美緒へ視線を向ける。

「弘から連絡だ」

「何だって?」

「月下美人の女の子たちもアクセサリー見たいらしい」

そう言うと、美緒が少し驚いた顔をした。

「弘さんが女の子に言ったのかな?」

「いや、茉莉花の女の子から聞いたみたいだ」

私は携帯をテーブルへ置いた。

早苗が茉莉花で販売した。

ただ、それだけの話だった。

それがもう月下美人まで広がっている。

思っていたより、ずっと早かった。

少し不思議な感覚だった。

美緒は少し考えるような顔をすると、私を見た。

「じゃあ私、持って行こうか?」

「月下美人にか?」

「うん。女の子同士の方が話しやすいと思うし」

私は少し考える。

確かに美緒の言う通りだった。

アクセサリーの話だけではない。

値段のことも。

好みのことも。

女の子同士の方が自然に話せる。

「そうだな」

私が頷くと、美緒が少し嬉しそうに笑った。

「任せて」

その表情を見ながら、私は自然と口を開く。

「ただ――」

「ん?」

「利益はあまり乗せなくていいと思ってる」

美緒は黙って続きを待っていた。

「利益より、女の子が喜ぶ方が大事な気がする。結局、その方が長く続く気がするんだ。茉莉花もその形で販売してる」

すると美緒が静かに頷いた。

「私もそう思う」

その答えが嬉しかった。

美緒とはこういう感覚が自然と合う時がある。

「女の子たちも、その方が喜ぶと思う」

「だな」

私はソファにもたれながら天井を見る。

「弘くんには私から連絡しとくね」

美緒がそう言いながら携帯を手に取る。

その姿を見ながら、私はふと笑った。

「何?」

「いや、普通に仕事してるなと思って」

そう言うと、美緒が少し笑う。

「今さら?」

「最初の頃は、こんな風になると思ってなかったからな」

「私も」

美緒はそう言って肩をすくめた。

だがその表情はどこか楽しそうだった。

仕事なのに、不思議と重くない。

美緒と一緒に仕事をしていることが、今は純粋に面白かった。

美緒が立ち上がり、クローゼットの方へ向かう。

「何してるんだ?」

「着替え。月下美人行くなら、それっぽい格好した方がいいでしょ?」

「もう行く気か」

「こういうのは早い方がいいの」

そう言って美緒が笑う。

私はその後ろ姿を見ながら、小さく息をついた。

気付けば、美緒はもう隣で支えるだけの存在ではなくなっていた。

今は一緒に、仕事を動かしている。

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