次の日、顔を優しく撫でられて目を覚ますと、美緒の柔らかい笑顔が目の前にあった。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
私が体を起こすと、美緒は自然に私の髪をそっと撫でて整える。
「はい、格好よくなったよ」
美緒は少し笑いながら、タオルを手渡す。
「顔洗ってきて、コーヒー淹れるから」
そう言ってキッチンへ向かう。
顔を洗い終えリビングに行くと、コーヒーの良い香りが広がっていた。
ソファーに腰を下ろし、携帯を手に取り画面を見ると弘からメールがきていた。
『お疲れです。時間があるとき連絡ください』
そのまま、弘の番号を表示させ通話ボタンを押す。
「兄貴、お疲れっす」
弘はすぐに出た。
「ああ、何かあったのか?」
「あのっすね、うちの女の子がアクセサリー見たいって言ってるんすよ」
「お前がアクセサリー販売の話を持ちかけたのか?」
「いや、最近、茉莉花の女の子を何回か送迎したんすよ。そのときに、うちの女の子と喋るようになってアクセサリーの話を聞いてるみたいなんすよ」
そのタイミングで、美緒がリビングに入ってきてカップをテーブルに置き隣に座る。
「なるほど。分かった、あとで連絡するから女の子には大丈夫だと言っておいてくれ」
「了解っす!それじゃ連絡待ってるっす」
私はそのまま隣に座っている美緒へ視線を向ける。
「弘から連絡だ」
「何だって?」
「月下美人の女の子たちもアクセサリー見たいらしい」
そう言うと、美緒が少し驚いた顔をした。
「弘さんが女の子に言ったのかな?」
「いや、茉莉花の女の子から聞いたみたいだ」
私は携帯をテーブルへ置いた。
早苗が茉莉花で販売した。
ただ、それだけの話だった。
それがもう月下美人まで広がっている。
思っていたより、ずっと早かった。
少し不思議な感覚だった。
美緒は少し考えるような顔をすると、私を見た。
「じゃあ私、持って行こうか?」
「月下美人にか?」
「うん。女の子同士の方が話しやすいと思うし」
私は少し考える。
確かに美緒の言う通りだった。
アクセサリーの話だけではない。
値段のことも。
好みのことも。
女の子同士の方が自然に話せる。
「そうだな」
私が頷くと、美緒が少し嬉しそうに笑った。
「任せて」
その表情を見ながら、私は自然と口を開く。
「ただ――」
「ん?」
「利益はあまり乗せなくていいと思ってる」
美緒は黙って続きを待っていた。
「利益より、女の子が喜ぶ方が大事な気がする。結局、その方が長く続く気がするんだ。茉莉花もその形で販売してる」
すると美緒が静かに頷いた。
「私もそう思う」
その答えが嬉しかった。
美緒とはこういう感覚が自然と合う時がある。
「女の子たちも、その方が喜ぶと思う」
「だな」
私はソファにもたれながら天井を見る。
「弘くんには私から連絡しとくね」
美緒がそう言いながら携帯を手に取る。
その姿を見ながら、私はふと笑った。
「何?」
「いや、普通に仕事してるなと思って」
そう言うと、美緒が少し笑う。
「今さら?」
「最初の頃は、こんな風になると思ってなかったからな」
「私も」
美緒はそう言って肩をすくめた。
だがその表情はどこか楽しそうだった。
仕事なのに、不思議と重くない。
美緒と一緒に仕事をしていることが、今は純粋に面白かった。
美緒が立ち上がり、クローゼットの方へ向かう。
「何してるんだ?」
「着替え。月下美人行くなら、それっぽい格好した方がいいでしょ?」
「もう行く気か」
「こういうのは早い方がいいの」
そう言って美緒が笑う。
私はその後ろ姿を見ながら、小さく息をついた。
気付けば、美緒はもう隣で支えるだけの存在ではなくなっていた。
今は一緒に、仕事を動かしている。

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