165話「ローテーブルを囲んで」

夕方前、茉莉花を出た。

正月の空気は少しずつ薄れていたが、街はまだ静かだった。

早苗に見送られ事務所を出て、車に乗り込んだ。

携帯を取り出し、リトに連絡する。

「もしもし、リト?」

電話はすぐに繋がった。

「ナオト、待ってたヨ!」

「今から行くけど、リトのマンションどこかな?」

「あー、えーとね。なんて言ったらいいかナ」

リトのもどかしさが、電話越しにも伝わる。

「あっ、〇〇町の信号のところにあるコンビニ分かるかナ?」

「ああ、そこの曲がり角にあるコンビニだろ」

「あっ!そうそう!ワタシも今から行きますネ!」

伝わった安堵感のある声だった。

コンビニに着くと、リトは入口付近に立っていた。

私を見つけると手を振りながら、小走りで車に駆け寄ってくる。

「ナオト!」

そう言いながらリトが右手を上げる。

私も手を上げ、「おお、リト!」とハイタッチした。

初めは慣れなかったハイタッチも、自然になってきたなと思った。

「リトのマンションはすぐ近く?」

ハンドルを切りながら聞く。

「はい、すぐ近くデス。そこの角から入ったところデス」

リトが指差しながら説明する。

「タレントたちも同じマンションに住んでるの?」

「ハイ、部屋は違うけど同じマンションデス」

「それじゃ、お土産買って行こうか」

リトはかなり遠慮していたが、お正月だしお年玉みたいなもんだと言って、ファストフード店に寄り、チキンやハンバーガーなどを買い込んだ。

「ナオトさん、やさしいネ。普通のお客さんこんなことしないヨ」

「お年玉だから、気にしないでいいよ」

そんな会話をしている間に、リトのマンションに着いた。

リトの部屋はシンプルで、ベッドに小さなテレビとテーブル、それにハンガーラックくらいしか置いてなかった。

「これタレントに持って行くから、ナオトさんも一緒に行こう」

リトはチキンやハンバーガーが入った袋を掲げた。

「えっ、俺も行くの?」

「ハイ!ナオトが行ったら喜ぶヨ!」

そう言って、リトは私を案内した。

エレベーターで上の階へ上がる。

ドアが開くと、そこはリトの部屋とは違う空気だった。

リトがドアをノックすると、中から声が返る。

「ハーイ!」

扉が開くと、MAHALと同じ甘い南国のような匂いが漂ってきた。

部屋には数人のタレントたちがいた。

六人、七人、あるいは八人。

3LDKの部屋に、生活を共有するようにして暮らしている。

みんな部屋の中でもアウターを着込んでいた。

ブランケットを羽織っている子もいる。

エアコンはコイン式で、使うたびにお金を入れる仕組みだと聞いた。

部屋の温度は、正直な冬だった。

一瞬、言葉が出なかった。

それでも、私に気づくと彼女たちは明るく笑った。

「ナオト!」

「ハッピーニューイヤー!」

奥の部屋からメイも出てきた。

「おー!ナオト!おめでとうデス!これに座って」

差し出されたのは、風呂場で使うあのプラスチックの小さな椅子だった。

「これは、ナオトからお土産だヨ」

リトがローテーブルの上に袋を置きながら言った。

「オー!ナオト、ありがとうネー!」

メイは大きな目をさらに大きくして喜び、みんなに声をかけていた。

気づけばみんな、お風呂の椅子に座りローテーブルを囲んでいた。

みんなスプーンとフォークを器用に使い、ワイワイ言いながらチキンを食べている。

私もお風呂の椅子に座り、出されたコーラを飲みながらタレントたちを眺めていた。

後ろからリトが小さな声で言った。

「ナオトに、普段のタレント見てほしかったネ」

その言葉で、ようやく理解した。

“隠れている現実”だった。

リトもローテーブルを囲み、ビール片手にチキンを食べながら陽気に笑っていた。

それにつられるように、タレントたちも笑う。

そんなリトやタレントたちを見ながら、私は寒い部屋の中に温かいものを感じていた。

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