真希が席へ座ると、早苗は改めて私たちを見回した。
「それじゃ、紹介するね」
そう言って真希の肩へ軽く手を添える。
「この子は西園真希ちゃん。前は綾さんと同じ店でスタッフをやってたの。仕事も真面目だし、女の子たちからの評判もすごく良かったんだよ」
綾さんも笑顔で頷く。
「真希ちゃんは本当に気が利く子なんです。私も一緒に働いていた頃は、何度も助けてもらいました」
真希は照れくさそうに笑い、小さく首を振った。
「そんな……。綾さんのほうが、いつも私を助けてくれてました」
その控えめな受け答えに、私は自然と頬が緩む。
「真希ちゃんは、どうして茉莉花で働こうと思ったの?」
私が尋ねると、真希は一度姿勢を正し、真っすぐ私を見つめた。
「綾さんから早苗さんのことを聞いていました。女の子を大切にしているお店だって。それで私も、そんな環境で働いてみたいと思ったんです」
その言葉を聞いた早苗は、少し照れくさそうに笑う。
「そんなふうに言われると恥ずかしいな」
店内には和やかな空気が流れ、真希の緊張も少しずつほぐれていくのが分かった。
私はカップをテーブルへ戻し、真希へ穏やかな口調で話しかけた。
「綾さんと同じ店で働いてたなら、ある程度の仕事は分かってるんだよね?」
真希は少し緊張した様子で頷く。
「はい。電話対応や女の子の送迎、スケジュール管理、それから事務所の掃除などはやっていました」
「なるほど」
私は真希へ向き直る。
「焦らなくていい。一つずつ覚えていけば十分だから」
その言葉に、真希はほっとしたような表情を浮かべた。
「ありがとうございます。頑張ります」
隣で話を聞いていた弘が笑顔で口を開く。
「真希ちゃん、携帯につけてるそのストラップって、あのアニメの主人公のだよね?」
弘はテーブルの上に置いてある真希の携帯を指差して言った。
「あっ、はい! あのアニメ好きなんですか?」
真希は顔を上げ、目を大きくして微笑む。
「うん。最近あのアニメ人気急上昇だからね」
弘は少し笑いながら答えた。
「そうなんですよ! 私、漫画のときから好きで、最近アニメ化されたから嬉しくて」
真希は目を輝かせた。
その様子を見た綾さんが安心したように言う。
「良かったね。弘さんとの共通の話題ができて、少し緊張が取れたね」
「はい。皆さん優しいですし、このアニメの話ができると思わなかったです」
真希は携帯を手に取り、笑顔で言った。
早苗はそんな真希を微笑ましく見ながら、テーブルの上へ手帳を広げる。
「それじゃ、少し仕事の説明するね」
真希は真剣な表情で頷き、一つひとつメモを取り始めた。
分からないことがあるたびに質問をし、そのたびに早苗や綾さんが丁寧に答える。
その姿を見ていると、仕事に対する真面目さが自然と伝わってきた。
一通り説明を終えると、真希は深く頭を下げた。
「まだ分からないことばかりですが、一日でも早く仕事を覚えられるよう頑張ります。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね」
早苗が笑顔で答える。
綾さんも優しく微笑み、弘は「頑張ってね」と声を掛けた。
私は真希を見つめ、小さく頷く。
「無理をしなくていい。分からないことは早苗や里奈ちゃん、綾さんに何でも聞けばいいから」
「はい」
真希は力強く返事をした。
その表情には、初めて会ったときの緊張はもうなかった。
店を出ると、春の日差しが駐車場を明るく照らしている。
早苗たちと別れ、私は弘と車へ乗り込んだ。
「兄貴」
エンジンを掛けながら弘が笑う。
「真希ちゃん、いい子でしたね」
「ああ」
私は窓の外へ目を向ける。
「きっと茉莉花の力になってくれる」
弘は大きく頷いた。
私たちが向かう先は、藤本の店『エンジェルタッチ』。
新しい仲間を迎えたその日。
茉莉花に新しい風が吹き始める一方で、私たちは次の仕事へと向かっていた。

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