里奈ちゃんが身支度を整え、玄関へ向かう足音が一階から聞こえてきた。
「早苗ー! 予約の時間になったから行ってくるね!」
元気いっぱいの声が二階まで届く。
「はーい!」
早苗は返事をすると部屋を出て階段を下りながら、
「行ってらっしゃい。気をつけてね!」
と声をかけた。
すると一階から弘の声も聞こえてくる。
「行ってらっしゃい!」
「行ってきまーす!」
里奈ちゃんの明るい返事とともに玄関の扉が閉まる音が響いた。
しばらくして階段を上がってくる足音が聞こえ、早苗と弘が笑いながら部屋へ戻ってきた。
「里奈さんって、本当にいつも元気っすよね」
弘が苦笑いしながら言う。
「うん。学生の頃からずっとあんな感じなの。周りまで明るくしちゃう子なんだよね」
早苗も笑いながら答えた。
その笑顔を見ていると、私まで自然と頬が緩む。
「あっ、そうだ」
早苗は思い出したようにノートパソコンを開き、弘の方へ向きを変えた。
「ホームページ完成したから、弘君も見てみて。」
「はい、見たいっす!」
弘はソファーへ腰を下ろし、画面を覗き込む。
早苗はトップページを開き、一つひとつページを切り替えながら説明を始めた。
店内の写真が映し出されると、弘は思わず「おぉ……」と小さく声を漏らす。
女の子紹介のページへ切り替わるたびに、弘は何度も頷きながら真剣な表情で画面を見つめている。
説明が終わると、弘は目を丸くして言った。
「これ、すごいっすね!」
画面から目を離さないまま続ける。
「これ見せたらローズファミリーの今田さんもビックリするっすよ」
そして早苗へ顔を向けると、満面の笑みを浮かべた。
「早苗姐さんって、やっぱすごいっす」
「そんなことないよ」
早苗は照れくさそうに笑う。
「私一人じゃ作れなかったし、アッちゃんにも教えてもらったからね」
私はコーヒーを口に運びながら頷いた。
「俺も弘も申し分ないと思う。このままローズファミリーに見せていいんじゃないか」
「もちろんっす!」
弘も力強く頷く。
「ありがとう。」
早苗は嬉しそうに微笑むと、パソコンへ向き直りデータのコピーを始めた。
部屋には静かなキーボードの音が響く。
私はコーヒーを飲みながら弘とローズファミリーの話をして待っていた。
ほどなくして早苗が顔を上げる。
「よしっ、終わったよ」
そう言ってデータを入れた茶封筒をテーブルへ置いた。
「もう終わったんすか?」
弘は驚いたように封筒を手に取る。
「それじゃ俺、今からローズファミリーへ行ってくるっす」
「今からか?」
私が聞くと、弘は迷いなく頷いた。
「はい。こういうのは早い方がいいっす。兄貴はここで待っててください。俺一人で行ってくるっす」
私は少し笑って言った。
「分かった。気をつけて行けよ」
「了解っす!」
弘は元気よく返事をすると、茶封筒を大事そうに抱えて部屋を出て行った。
早苗も廊下へ出て見送る。
「弘君、気をつけてね!」
「はーい!」
階段を駆け下りる軽快な足音が聞こえ、やがて玄関の扉が開いて閉まる音がした。
部屋に静けさが戻る。
私は窓から車に乗り込む弘を見てふと微笑んだ。
あの頃は、何でも自分一人で抱え込んでいた。
けれど今は違う。
任せられる仲間がいる。
それが何よりも嬉しかった。

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