ミッシェルのアパートを出る頃には、すっかり遅い時間になっていた。
「また来てネ!」
玄関先でミッシェルが笑顔で手を振る。
「練習の日決まったら連絡するネ」
「ああ」
「バイバイ!」
私たちも手を振り返し、アパートを後にした。
車に乗り込むと、リトがしみじみと呟いた。
「ミッシェル、子供いたノ。ビックリしたヨ」
「私も驚いたよ」
エンジンをかけながら答える。
「ウン」
リトも頷いた。
「でも昔から歌好きだったヨ」
「そうなのか?」
「ウン。今日の話聞いてて分かったヨ」
リトは笑う。
「歌の話してる時、楽しそうだったネ」
「確かにな」
私は頷いた。
「今も好きヨって言ってたしな」
「好きなこと仕事にできるの、いいことだヨ」
「そうだな」
私は小さく笑った。
しばらくしてリトのマンションに着く。
「今日はありがとうネ」
「こちらこそ」
「また電話するネ」
「ああ」
リトがエントランスに入ったあと、私はリトとMAHALのタレントが住むマンションを眺めていた。
さっきまでいたミッシェルの住む黒木のアパート。
同じ街、同じようなフィリピンクラブで働いていても、店が違うだけで待遇は違う。
何か分からないが、釈然としなかった。
そんなことを考えながら、私はハンドルをきり、美緒の待つマンションへ向かった。
部屋に入ると、美緒が安心したような顔をした。
「おかえり」
「ただいま」
「遅かったから少し心配したよ」
「悪い。話し込んでてな」
「そうだったんだ」
私たちはソファーに腰を下ろした。
「それでクラブ黒木どうだった?」
美緒が尋ねる。
「思ったよりいい感じだったよ」
私は笑った。
「ママも協力的でさ。タレントのアパートに入ってアクセサリー見せるのも許可してくれた」
「へぇ」
「それに橋渡ししてくれたタレントがいてな」
「タレント?」
「ああ。ミッシェルって子なんだけど」
私は空港でリトと再会した時のことから今日の出来事までを話した。
美緒は時折頷きながら、楽しそうに耳を傾けていた。
「そのミッシェルさんって、いい人なんだね」
「ああ」
私は頷いた。
「明るくて面倒見もいい」
「それなら良かったね」
美緒は微笑んだ。
私もつられて笑う。
今日は思った以上にいろいろな話をした。
そして、思った以上に収穫もあった。
私はコーヒーを一口飲み、隣で穏やかに笑う美緒を見た。
悪くない一日だった。

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