209話「広がる世界」

食事を終えた私たちは店の外へ出た。

「またネー!」

「また今度マンションに来てネ!」

メイたちが手を振る。

「またな」

「気を付けて帰ってね」

私と美緒も手を振った。

メイたちが歩いていく後ろ姿を少し見送り、私たちも車へ向かった。

リトをマンションまで送るため車を走らせながら、しばらくは他愛もない話をしていた。

今日の販売のこと。

メイたちのこと。

そして日本とフィリピンの違いのこと。

そんな話で盛り上がっていると。

助手席のリトが不意に私を見た。

「ナオト」

「ん?」

「プロモーターの仕事に興味あるノ?」

突然の質問だった。

私は少し驚く。

「どうしてだ?」

「ナオト真剣な顔で聞いてたからネ」

リトは笑った。

「ああ」

私は苦笑する。

確かに聞いていた。

どうやってタレントが日本へ来るのか。

どうやって店で働くのか。

知らない事ばかりだったからだ。

「いや」

私は首を振る。

「どんな仕組みになってるのか気になっただけだよ」

「ソウ?」

「仕事として考えた事はなかったな」

そう言うと、リトは小さく笑った。

「でも興味は持ったネ?」

「まあな」

私は正直に答えた。

今まで知らなかった世界だ。

タレント。

プロモーター。

芸能界みたいな事務所。

どれも私には縁のない話だった。

だけど実際に話を聞いてみると面白い。

世の中には色々な仕事があるものだと思う。

「ナオト向いてるかもしれないネ」

「そうか?」

「ナオトは優しいし、人の話ちゃんと聞くヨ」

私は思わず笑った。

そんな風に言われたのは初めてだった。

「そういうものかな」

「そういうものネ」

リトは楽しそうに笑った。

そんな話をしているうちに、リトの住むマンションへ到着した。

車を停めると、リトがシートベルトを外す。

「送ってくれてありがとうネ」

「うん、楽しかった。フィリピン料理も美味しかったよ」

「また連絡するネ」

「分かった」

リトは手を振ると車を降りた。

そしてマンションの入口へ向かって歩いていく。

その背中が見えなくなるまで見送ると、私は再び車を走らせた。

助手席では美緒が静かに笑っている。

「何だ?」

私が聞くと、美緒は首を振った。

「別に」

そう言いながらも笑みは消えない。

「絶対何かあるだろ」

「ふふっ」

美緒は窓の外を見た。

「ナオトさん、楽しそうだったなって」

「そうか?」

「うん」

私は少し考える。

確かに面白かった。

今日聞いた話はどれも知らない事ばかりだった。

フィリピンの話。

タレントたちの話。

そしてプロモーターという仕事。

どれも今までの私なら関わる事のなかった世界だ。

「まあ、面白かったな」

正直に答える。

すると美緒は嬉しそうに頷いた。

「良かった」

「何がだ?」

「ナオトさん、最近色んな事に興味持ってるから」

私は思わず苦笑した。

「そうかもしれないな」

昔の私なら気にも留めなかったかもしれない。

だけど今は違う。

知らない事を知るのは案外楽しい。

そんな風に思うようになっていた。

しばらくして美緒のマンションへ到着する。

二人でエレベーターに乗り、部屋へ向かった。

「ただいま」

「おかえり」

誰もいない部屋なのに、自然とそんな言葉が出る。

美緒も小さく笑った。

私は上着を脱ぎ、ソファーに腰を下ろした。

今日の事を思い返す。

フィリピン料理を食べた事。

メイたちと話した事。

そしてリトから聞いたプロモーターの仕事の事。

どれも少し前の私なら関わる事のなかった世界だ。

だけど今は、そういう話を聞くのが面白いと思える。

知らない事を知るのは案外楽しい。

私は小さく息をついた。

世の中には、まだ私の知らない世界がたくさんある。

そんな事を考えながら、私はゆっくりとソファーにもたれた。

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