192話「頼りになる人」

茉莉花へ着くと、一階は静かだった。

里奈ちゃん達は仕事へ出ているらしい。

私は二階へ上がる。

部屋へ入ると早苗が机へ向かいノートパソコンを触っていた。

私に気付くと少し笑う。

「おかえり」

「ああ、ただいま」

私は早苗の隣へ行く。

早苗が少し身体を寄せた。

「寒かった?」

「少しな」

そう言うと早苗が私の腕へ軽く触れる。

「ストーブつけよっか」

私は少し笑った。

「うん」

早苗が立ち上がりストーブをつける。

部屋が少しずつ暖かくなる。

私がソファーに座ると早苗も隣へ座る。

いつもの距離だった。

「そう言えば」

早苗が言う。

「こっちも問い合わせ増えてる」

「茉莉花も?」

早苗が頷く。

「花水木と似た感じ」

私は少し考える。

「そっちもか」

早苗がノートパソコンをこちらへ向ける。

「見る?」

私は画面を覗き込む。

予約。質問。確認。

花水木と同様、思っていたより届いていた。

「こんなのもある」

早苗が画面を見ながら言う。

「◯◯さんてどんな子ですか?」

私は少し考える。

「ホームページ見れば分かるだろ?」

早苗が首を横に振った。

「写真だけじゃ分からないよ」

「そうか?」

早苗が頷く。

「写真だけじゃなく、情報もっと載せた方がいいと思う」

私は少し考える。

「例えば?」

早苗が指を折りながら言う。

「好きな食べ物」一本。

「好きな色」二本。

「似てるって言われた有名人」三本。

「自信ある身体のパーツ」四本。

私は少し笑った。

「最後いるか?」

早苗も笑う。

「見ると思う」

「三十くらい載せてもいいと思うな」

私は少し笑う。

顔だけじゃない。

雰囲気。性格。趣味。

そういうのも選ぶ理由になるのかもしれない。

早苗が続ける。

「あと週間スケジュールも」

「スケジュール?」

「一週間先まで分かった方が予約しやすいと思う」

私は頷く。

「出張の客とかか?」

「うん」

少し間が空く。

早苗が肩を軽く寄せた。

「それと」

「ん?」

「お客さんの管理もしない?」

私は早苗を見る。

「管理?」

早苗が頷く。

「電話番号ごとに」

そして続ける。

「どんな女の子指名するか」

「うん」

「注意する事あるか」

「うん」

「どういう遊び方する人か」

私は少し黙る。

早苗がこちらを見る。

「管理した方が絶対いいと思う」

早苗は続ける。

「綾さんも言ってんだけど。例えばね、経験のない新人さんだったら最初は優しいお客さんにつけるとかね」

私は少し笑った。

「早苗」

「ん?」

「すごいな、俺より考えてるな」

早苗が少し笑う。

「ずっと考えてた」

私は少し笑った。

「頼りになるな」

早苗が少しだけこちらを見る。

「今さら?」

そう言うと。

私の肩へ頭を乗せた。

少し笑う。

外を見る。

昨日までと同じ部屋。

同じ机。同じ景色。

けれど。

少しずつ。

やる事は増えていた。

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