179話「早苗らしさ」

翌日の昼過ぎ。

私は茉莉花へ帰った。

玄関の扉を開けると、早苗がリビングから出てきた。

「おかえり」

「ああ、ただいま」

私がコートを脱いでいると、早苗は手を伸ばし、自然に受け取る。

私がリビングの方に目を向けると、

「今、みんな出払ってる。コーヒー淹れてくるから先に二階に行ってて」

早苗はそう言いながらキッチンへ向かった。

私は座り慣れたソファーに腰を下ろした。

しばらくすると、早苗がカップをテーブルに置き、隣に座る。

どこか機嫌が良さそうだった。

「どうだった?」

私が聞くと、早苗はすぐに少し笑った。

「思ったより反応良かったよ」

「本当か?」

「うん」

早苗は頷く。

「仕事が終わった子や、合間に何人かへ見せたんだけどね」

そう言いながら昨日のアクセサリーを取り出した。

「みんな結構興味持ってた」

「へえ」

「可愛いって言う子もいたし、値段聞いてそのまま買った子もいたよ」

初めての販売だった。

正直、もう少し時間がかかると思っていた。

「それは良かったな」

「うん」

早苗も嬉しそうに頷く。

だが、そのあと少しだけ真面目な顔になった。

「それでね」

「ん?」

「ちょっと考えたことがあるんだ」

私は黙って続きを待った。

早苗はコーヒーを一口飲んでから話し始める。

「アクセサリーの値段なんだけど」

「ああ」

「私はあまり利益を乗せたくない」

私は少し意外に思った。

利益を出そうと思えば、もっと高く売ることもできる。

だが早苗は首を横に振った。

「もちろん利益は必要だよ」

「うん」

「でも女の子たちからは、もうこの仕事で利益が出てるでしょ?」

私は頷いた。

その通りだった。

「だからアクセサリーは、なるべく安く買ってもらいたい」

早苗はそう言って続ける。

「その代わり、そこで出た利益は別にしておきたいんだ」

「別に?」

「うん」

早苗は少し笑った。

「食事会とか」

「食事会?」

「あと慰安旅行とか」

私は思わず笑ってしまった。

早苗らしい発想だった。

「女の子たちも毎日頑張ってるからさ」

そう言う早苗の表情は真剣だった。

「少しでもみんなに返せたらいいなって思う」

私はしばらく黙っていた。

利益だけを考えるなら、もっと別のやり方もある。

だが早苗が考えているのは数字だけではなかった。

店で働く女の子たちのこと。

その先のこと。

長く続けていくこと。

そんなことを考えていた。

私は小さく頷いた。

「いいと思う」

早苗の表情が少し明るくなる。

「本当?」

「ああ」

私は笑った。

「その方が早苗らしい」

すると早苗は照れたように笑う。

「そうかな」

「そうだよ」

「あっ。そうそう、綾さんと里奈も買ったよ。二人は仕入れ値にしたけど良かったかな?」

「ああ、いいと思う」

「ありがとう。里奈は給料引きで二回払いだって」

「里奈ちゃんらしいな」

二人で顔を見合わせて笑う。

しばらく他愛ない話をしたあと、早苗は嬉しそうにコーヒーへ手を伸ばした。

利益だけを追うことは簡単だ。

だけど、人を大切にすることは簡単じゃない。

だからこそ価値がある。

女の子たちのことを考えながら話す早苗を見ていると、茉莉花は長く続いていく気がした。

私はコーヒーを一口飲む。

早苗に任せて良かった。

心からそう思った。

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