翌日の昼過ぎ。
私は茉莉花へ帰った。
玄関の扉を開けると、早苗がリビングから出てきた。
「おかえり」
「ああ、ただいま」
私がコートを脱いでいると、早苗は手を伸ばし、自然に受け取る。
私がリビングの方に目を向けると、
「今、みんな出払ってる。コーヒー淹れてくるから先に二階に行ってて」
早苗はそう言いながらキッチンへ向かった。
私は座り慣れたソファーに腰を下ろした。
しばらくすると、早苗がカップをテーブルに置き、隣に座る。
どこか機嫌が良さそうだった。
「どうだった?」
私が聞くと、早苗はすぐに少し笑った。
「思ったより反応良かったよ」
「本当か?」
「うん」
早苗は頷く。
「仕事が終わった子や、合間に何人かへ見せたんだけどね」
そう言いながら昨日のアクセサリーを取り出した。
「みんな結構興味持ってた」
「へえ」
「可愛いって言う子もいたし、値段聞いてそのまま買った子もいたよ」
初めての販売だった。
正直、もう少し時間がかかると思っていた。
「それは良かったな」
「うん」
早苗も嬉しそうに頷く。
だが、そのあと少しだけ真面目な顔になった。
「それでね」
「ん?」
「ちょっと考えたことがあるんだ」
私は黙って続きを待った。
早苗はコーヒーを一口飲んでから話し始める。
「アクセサリーの値段なんだけど」
「ああ」
「私はあまり利益を乗せたくない」
私は少し意外に思った。
利益を出そうと思えば、もっと高く売ることもできる。
だが早苗は首を横に振った。
「もちろん利益は必要だよ」
「うん」
「でも女の子たちからは、もうこの仕事で利益が出てるでしょ?」
私は頷いた。
その通りだった。
「だからアクセサリーは、なるべく安く買ってもらいたい」
早苗はそう言って続ける。
「その代わり、そこで出た利益は別にしておきたいんだ」
「別に?」
「うん」
早苗は少し笑った。
「食事会とか」
「食事会?」
「あと慰安旅行とか」
私は思わず笑ってしまった。
早苗らしい発想だった。
「女の子たちも毎日頑張ってるからさ」
そう言う早苗の表情は真剣だった。
「少しでもみんなに返せたらいいなって思う」
私はしばらく黙っていた。
利益だけを考えるなら、もっと別のやり方もある。
だが早苗が考えているのは数字だけではなかった。
店で働く女の子たちのこと。
その先のこと。
長く続けていくこと。
そんなことを考えていた。
私は小さく頷いた。
「いいと思う」
早苗の表情が少し明るくなる。
「本当?」
「ああ」
私は笑った。
「その方が早苗らしい」
すると早苗は照れたように笑う。
「そうかな」
「そうだよ」
「あっ。そうそう、綾さんと里奈も買ったよ。二人は仕入れ値にしたけど良かったかな?」
「ああ、いいと思う」
「ありがとう。里奈は給料引きで二回払いだって」
「里奈ちゃんらしいな」
二人で顔を見合わせて笑う。
しばらく他愛ない話をしたあと、早苗は嬉しそうにコーヒーへ手を伸ばした。
利益だけを追うことは簡単だ。
だけど、人を大切にすることは簡単じゃない。
だからこそ価値がある。
女の子たちのことを考えながら話す早苗を見ていると、茉莉花は長く続いていく気がした。
私はコーヒーを一口飲む。
早苗に任せて良かった。
心からそう思った。

コメント