部屋には二人の静かな時間だけが流れていた。
早苗は私の胸元に顔を埋めたまま、小さく笑う。
「最近、本当に忙しそうだね」
「少しずつだけどな」
「でも楽しそう」
「ああ」
私がそう答えると、早苗は嬉しそうに頷いた。
「あなたが前に進んでるのを見るの、好き」
その言葉に思わず笑う。
「早苗のおかげだよ」
「そういうこと言うと調子に乗るよ?」
「少しくらいならいいだろ」
二人で顔を見合わせて笑った。
しばらく寄り添っていたあと、私はベッドの脇に置いていたバッグへ手を伸ばした。
「そうだ」
「ん?」
早苗が顔を上げる。
私はバッグから今日仕入れてきたアクセサリーを取り出した。
「これね」
早苗は少し身を乗り出した。
私はテーブルの上へアクセサリーを並べていく。
ネックレス。
ピアス。
ブレスレット。
高梨社長が用意してくれた日本人向けの商品だった。
早苗は一つひとつ手に取りながら眺めていく。
角度を変えたり、光にかざしたりしながら丁寧に確認していた。
やがて一つのネックレスを手にしたまま頷く。
「これなら売れるよ」
「そうか」
「派手すぎないし、普段でも使いやすい。こういうの好きな子、多いと思う」
私は少し肩の力が抜けた。
早苗がそう言うなら間違いない。
「それと前に話してたことなんだけど」
「うん」
「茉莉花の女の子たちへの販売は早苗に任せるよ。価格設定も全部早苗が決めていい」
早苗は少し驚いたように私を見る。
「全部、私が?」
「ああ」
私は頷いた。
「商品の管理も販売も支払い方法もだ」
早苗は手にしていたアクセサリーへ視線を落とした。
少し考えるような表情を見せる。
だがすぐに小さく笑った。
「責任重大だね」
「大丈夫だろ?」
すると早苗はアクセサリーを置き、私の手をそっと握った。
「もちろん」
その返事に自然と笑みが浮かぶ。
「ありがとう」
「その代わり」
「ん?」
「何かあったとき、ちゃんと私にも相談してね」
そう言って早苗は楽しそうに笑った。
「分かってる」
私がそう答えると、早苗は満足そうに頷いた。
これからどうなるかは分からない。
それでも一人ではなかった。
美緒がいて。
早苗がいる。
支えてくれる人たちがいる。
一人では辿り着けなかった場所へ、私は少しずつ進もうとしていた。
早苗の温もりを感じながら、私はその手を静かに握り返した。

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