178話「一人じゃない」

部屋には二人の静かな時間だけが流れていた。

早苗は私の胸元に顔を埋めたまま、小さく笑う。

「最近、本当に忙しそうだね」

「少しずつだけどな」

「でも楽しそう」

「ああ」

私がそう答えると、早苗は嬉しそうに頷いた。

「あなたが前に進んでるのを見るの、好き」

その言葉に思わず笑う。

「早苗のおかげだよ」

「そういうこと言うと調子に乗るよ?」

「少しくらいならいいだろ」

二人で顔を見合わせて笑った。

しばらく寄り添っていたあと、私はベッドの脇に置いていたバッグへ手を伸ばした。

「そうだ」

「ん?」

早苗が顔を上げる。

私はバッグから今日仕入れてきたアクセサリーを取り出した。

「これね」

早苗は少し身を乗り出した。

私はテーブルの上へアクセサリーを並べていく。

ネックレス。

ピアス。

ブレスレット。

高梨社長が用意してくれた日本人向けの商品だった。

早苗は一つひとつ手に取りながら眺めていく。

角度を変えたり、光にかざしたりしながら丁寧に確認していた。

やがて一つのネックレスを手にしたまま頷く。

「これなら売れるよ」

「そうか」

「派手すぎないし、普段でも使いやすい。こういうの好きな子、多いと思う」

私は少し肩の力が抜けた。

早苗がそう言うなら間違いない。

「それと前に話してたことなんだけど」

「うん」

「茉莉花の女の子たちへの販売は早苗に任せるよ。価格設定も全部早苗が決めていい」

早苗は少し驚いたように私を見る。

「全部、私が?」

「ああ」

私は頷いた。

「商品の管理も販売も支払い方法もだ」

早苗は手にしていたアクセサリーへ視線を落とした。

少し考えるような表情を見せる。

だがすぐに小さく笑った。

「責任重大だね」

「大丈夫だろ?」

すると早苗はアクセサリーを置き、私の手をそっと握った。

「もちろん」

その返事に自然と笑みが浮かぶ。

「ありがとう」

「その代わり」

「ん?」

「何かあったとき、ちゃんと私にも相談してね」

そう言って早苗は楽しそうに笑った。

「分かってる」

私がそう答えると、早苗は満足そうに頷いた。

これからどうなるかは分からない。

それでも一人ではなかった。

美緒がいて。

早苗がいる。

支えてくれる人たちがいる。

一人では辿り着けなかった場所へ、私は少しずつ進もうとしていた。

早苗の温もりを感じながら、私はその手を静かに握り返した。

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