目が覚めると、部屋の明かりは少し落ちていた。
キッチンの方から、水の音と食器の触れ合う小さな音が聞こえる。
どれくらい寝ていたのか分からないが、体は少し軽かった。
携帯を見ると、弘から「今から行きます」とメッセージが入っていた。
最近は電話じゃなくてメールが来ることが増えた。
私は体を起こし、軽く伸びをした。
「美緒、弘がもうすぐ着くみたいだ」
キッチンに向かって声をかけた。
「分かりました。それじゃコーヒー淹れますね」
美緒はキッチンから顔を出して言った。
しばらくするとインターホンが鳴り、玄関で美緒と弘の笑い声が聞こえてきた。
弘がキョロキョロしながらリビングに入ってくる。
「兄貴、お疲れっす!俺、女の子の部屋に入るのとか久しぶりっすよ!なんかメッチャいい匂いするっすね」
部屋を見回しながら、大きく息を吸い込む。
「お前なぁ。まぁ、とにかく座れよ」
私は呆れたように言った。
「弘さんって、本当に面白いですね」
美緒はコーヒーをテーブルに置きながらクスッと笑う。
私はコーヒーを一口飲んで言った。
「それじゃ始めよう。まずは料金設定からだ」
「料金は今のままじゃダメなんすかね」
弘がすぐに口を挟む。
「美緒はどう思う?」
私は美緒に目を向けた。
「はい。今の金額から三千円は下げたほうがいいと思います」
一呼吸置いて続ける。
「今は店が少ないから、お客さんはあまり選べませんよね。
でも、これから増えたら…選ばれる側になります」
弘は腕を組んだまま口を挟んだ。
「三千円も下げたら売上かなり落ちるっすよ。女の子と半分にしても千五百円っすから」
「女の子の給料は減らせない。下げるなら、その分は全部店の負担だ」
私はそう言った。
美緒が静かに続ける。
「はい。ただ下げればいいって訳じゃないんです」
一度弘に目を向けてから言葉を選ぶ。
「安さだけで勝負すると、結局は質が落ちてしまいます。
お客さんの質も、女の子の質も」
弘が小さく頷く。
「女の子のモチベーションも大事です。
これは売上にも求人にも直結します」
少し間を置いてから、続けた。
「指名料は別でもらう形にします。
料金とは別に払ってでも選んでもらえたっていう実感が、モチベーションにつながると思うんです」
「それがサービスの質にもつながって、結果的にお店の評価も上がると思います」
弘は納得したように顔を上げた。
「なるほどっすね…仕事の数増やせばいいって話じゃないんすね」
「そうだな。安売りに寄せすぎたら、どっちも崩れる」
私はそう言ってから、美緒に視線を戻した。
「いいと思う。その形でいこう」
そう言うと、二人が小さく頷いた。
「やっぱ美緒ちゃんは大学出てるから違うなぁ。俺、普通に勉強になりましたよ。
俺と兄貴は中卒っすもんね」
弘が感心したように言う。
「バーカ、お前と俺は同じ中卒でも違うんだよ。一緒にするな」
私がそう言うと、三人で笑った。
「弘さん、お腹すきましたよね?簡単なものですけど」
そう言って美緒はキッチンへ戻る。
しばらくして、大きな皿をテーブルに置いた。
おにぎりに唐揚げ、卵焼き、ウインナーが並んでいる。
「おー!運動会ねお弁当みたいっすね!いただきまーす」
弘は嬉しそうにおにぎりにかぶりついた。
私もそれにつられて手を伸ばす。
こうしてこの夜、花水木の料金やシステムはほぼ固まった。
この形なら、いける気がした。
ふと顔を上げると、美緒が嬉しそうにこちらを見ていた。

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