114話「同じ景色」

少し早いが、私は事務所を出て美緒のマンションへ向かった。

何度か走ったことのある、一時間ほどの道のり。

これから先、幾度となくこの道を走ることになるのだろうと思った。

美緒のマンションに着くと、やはりまだ車は駐車場になかった。

私は車を停め、窓を開けてエンジンを切った。

窓からは、秋の匂いを含んだ心地いい風が入ってくる。

シートを倒し、目を閉じた。

頬を撫でる温かい感触で目が覚めた。

目を開けると、窓越しに美緒が微笑んで立っていた。

「ごめんなさい。遅くなって」

「いや、俺が勝手に早く来ただけだから」

私はシートを起こしながら言った。

美緒は一瞬だけ間を置いてから、

「横、乗っていいですか?」

と少し遠慮がちに言った。

「ああ」

と返すと、美緒は小走りで助手席側に回り、ドアを開けて乗り込んできた。

その瞬間、美緒の部屋の、少し甘い香りがふわりと広がった。

「この坂を上がったところに、街が見渡せるいい場所があるんです。行きませんか?」

美緒は駐車場の横を通る道路を指差して言った。

「うん、行ってみたいな」

私はエンジンをかけ、ハンドルを切って車を出した。

坂を上っていくと、すぐに少し開けた駐車場があり、その横に小さな公園があった。

車を停めると、街が一望できた。

青空に、うっすらと茜色が混じっている。

しばらく二人で、黙って街を眺めていた。

「何か音楽、かけていいですか?」

「ああ、いいよ。でもいつもかけてるCDしかないよ」

「それ、聴いてみたいです」

私はオーディオのスイッチを押した。

静かな車内に、ゆっくりと音が流れ始める。

美緒は前を見たまま、何も言わずに最後まで聴いていた。

「これ、なんていう曲なんですか?」

そう言って、私を見た。

「レフトアローンって曲だよ」

「レフトアローン……切ないけど、すごく素敵な曲ですね」

美緒は、どこか遠くを見るように言った。

私はその横顔を眺めながら、藤本から聞いた美緒の過去の話を思い出していた。

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