少し早いが、私は事務所を出て美緒のマンションへ向かった。
何度か走ったことのある、一時間ほどの道のり。
これから先、幾度となくこの道を走ることになるのだろうと思った。
美緒のマンションに着くと、やはりまだ車は駐車場になかった。
私は車を停め、窓を開けてエンジンを切った。
窓からは、秋の匂いを含んだ心地いい風が入ってくる。
シートを倒し、目を閉じた。
頬を撫でる温かい感触で目が覚めた。
目を開けると、窓越しに美緒が微笑んで立っていた。
「ごめんなさい。遅くなって」
「いや、俺が勝手に早く来ただけだから」
私はシートを起こしながら言った。
美緒は一瞬だけ間を置いてから、
「横、乗っていいですか?」
と少し遠慮がちに言った。
「ああ」
と返すと、美緒は小走りで助手席側に回り、ドアを開けて乗り込んできた。
その瞬間、美緒の部屋の、少し甘い香りがふわりと広がった。
「この坂を上がったところに、街が見渡せるいい場所があるんです。行きませんか?」
美緒は駐車場の横を通る道路を指差して言った。
「うん、行ってみたいな」
私はエンジンをかけ、ハンドルを切って車を出した。
坂を上っていくと、すぐに少し開けた駐車場があり、その横に小さな公園があった。
車を停めると、街が一望できた。
青空に、うっすらと茜色が混じっている。
しばらく二人で、黙って街を眺めていた。
「何か音楽、かけていいですか?」
「ああ、いいよ。でもいつもかけてるCDしかないよ」
「それ、聴いてみたいです」
私はオーディオのスイッチを押した。
静かな車内に、ゆっくりと音が流れ始める。
美緒は前を見たまま、何も言わずに最後まで聴いていた。
「これ、なんていう曲なんですか?」
そう言って、私を見た。
「レフトアローンって曲だよ」
「レフトアローン……切ないけど、すごく素敵な曲ですね」
美緒は、どこか遠くを見るように言った。
私はその横顔を眺めながら、藤本から聞いた美緒の過去の話を思い出していた。

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