翌日、私は朝から事務所で机に向かっていた。
届出に必要なものを調べるため、ノートに思いつく限りの項目を書き出していく。
だが、調べれば調べるほど曖昧な部分が増えていった。
「……やっぱり、直接聞いたほうが早いか」
小さく呟き、ペンを置く。
警察署に行けば教えてはくれるだろう。
だが、行く人間は考える必要があった。
弘の顔が浮かぶ。
「……いや、あいつは違うな」
わるくはないが、細かいところが抜けている。
聞くべきことを聞ききれない可能性がある。
それに——無駄な警戒は、最初から避けたほうがいい。
「男が行くより、女のほうがいいか」
警戒心は、少ないほうがいい。
私は携帯を手に取り、美緒に連絡を入れた。
美緒はすぐに電話に出た。
事情を説明すると、
「分かりました。今日は藤本さんの集金日だから、その後、警察署に寄って聞いてきますね」
美緒は少し嬉しそうに言った。
「うん、ありがとうな。後でそっちに行くから」
そう言って電話を切った。
私は椅子に背を預け、頭の中を整理する。
美緒が警察署で、届出に関して必要な書類や手続き方法を調べてくる。
花水木の事務所は、月下美人があるから問題ない。
あとは——茉莉花の事務所だ。
場所を決めないといけない。
それと、茉莉花のスタッフ。
里奈ちゃんがいるとしても、もう一人は確保しないとな。
ぼんやりと考えていると、部屋のドアが開いた。
「あっ、兄貴来てたんすか!めずらしいっすね」
弘がヨレヨレの部屋着に、頭ボサボサで目を擦りながら入ってきた。
「起こしてわるかったな」
「いや、もう準備する時間なんで」
そう言いながら、弘が机のノートに目を向けた。
「“花水木”……あっ、新しい店の名前っすか!」
弘はノートを手に取り、「花水木」と書いた文字を指差して言った。
「ああ、そうだ。美緒が考えたんだ」
「へぇ、美緒ちゃんが!なんかオシャレでいいっすね。花水木って花なんすよね?」
弘は私を見て言った。
私が笑うと、弘も笑った。
私はノートを弘の手から取り、言った。
「今日、美緒が警察署に届出について調べに行くから、大体のことは分かるぞ」
私は一呼吸置き、
「弘、これからが本番だぞ」
「了解っす!任せてください兄貴!」
プルルルル、と店の電話が鳴った。
「はい、月下美人です!」
弘は仕事モードの顔になって電話に出ると、そのまま部屋を出て行った。
今日もまた、いつもと変わらない一日が始まった。

コメント