113話「動き出す準備」

翌日、私は朝から事務所で机に向かっていた。

届出に必要なものを調べるため、ノートに思いつく限りの項目を書き出していく。

だが、調べれば調べるほど曖昧な部分が増えていった。

「……やっぱり、直接聞いたほうが早いか」

小さく呟き、ペンを置く。

警察署に行けば教えてはくれるだろう。

だが、行く人間は考える必要があった。

弘の顔が浮かぶ。

「……いや、あいつは違うな」

わるくはないが、細かいところが抜けている。

聞くべきことを聞ききれない可能性がある。

それに——無駄な警戒は、最初から避けたほうがいい。

「男が行くより、女のほうがいいか」

警戒心は、少ないほうがいい。

私は携帯を手に取り、美緒に連絡を入れた。

美緒はすぐに電話に出た。

事情を説明すると、

「分かりました。今日は藤本さんの集金日だから、その後、警察署に寄って聞いてきますね」

美緒は少し嬉しそうに言った。

「うん、ありがとうな。後でそっちに行くから」

そう言って電話を切った。

私は椅子に背を預け、頭の中を整理する。

美緒が警察署で、届出に関して必要な書類や手続き方法を調べてくる。

花水木の事務所は、月下美人があるから問題ない。

あとは——茉莉花の事務所だ。

場所を決めないといけない。

それと、茉莉花のスタッフ。

里奈ちゃんがいるとしても、もう一人は確保しないとな。

ぼんやりと考えていると、部屋のドアが開いた。

「あっ、兄貴来てたんすか!めずらしいっすね」

弘がヨレヨレの部屋着に、頭ボサボサで目を擦りながら入ってきた。

「起こしてわるかったな」

「いや、もう準備する時間なんで」

そう言いながら、弘が机のノートに目を向けた。

「“花水木”……あっ、新しい店の名前っすか!」

弘はノートを手に取り、「花水木」と書いた文字を指差して言った。

「ああ、そうだ。美緒が考えたんだ」

「へぇ、美緒ちゃんが!なんかオシャレでいいっすね。花水木って花なんすよね?」

弘は私を見て言った。

私が笑うと、弘も笑った。

私はノートを弘の手から取り、言った。

「今日、美緒が警察署に届出について調べに行くから、大体のことは分かるぞ」

私は一呼吸置き、

「弘、これからが本番だぞ」

「了解っす!任せてください兄貴!」

プルルルル、と店の電話が鳴った。

「はい、月下美人です!」

弘は仕事モードの顔になって電話に出ると、そのまま部屋を出て行った。

今日もまた、いつもと変わらない一日が始まった。

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