66話「姐さんの背中」

最近は、午前中は刺青、午後からは恵美さんとの仕事の準備。

それが一日のルーティンのようになっていた。

毎日、熱と痛みに付き合う日々。

線で描かれていた鯉に鱗が入り、目が彫られ、色が差されていく。

日を追うごとに輪郭は厚みを持ち、やがてリアルな真鯉へと姿を変えていった。

鏡に映る、真っ黒に彫られた鯉。

それを見つめながら、私自身も黒に染まっていっているような気がした。

ある日、彫り師の先生が針を動かしながら、ぽつりと言った。

「あんた、恵美のところで働いてるんだってな」

「あっ、はい」

「恵美とは長いのか?」

付き合っていたことは言わず、長くないとだけ曖昧に答えた。

「そうか。それじゃ知らないだろうが、恵美はな、ある組長の姐さんだったんだ。

色んな事情で組はなくなったが、あいつは残った。

大したやつだよ、恵美は」

知らなかった。

普通の人生を歩んできた人ではないとは思っていた。

だが、姐さんだったとは。

組がなくなり、すべてを失い、何もない状態から今の立場を築いた。

その道のりがどれほどのものだったのか、私には想像もできない。

恵美さんの背中の刺青は、

私のような覚悟や決意とは比べものにならない、

もっと重い何かを背負っているのだと思った。

事務所として借りた部屋は、家具や備品が揃うたびに、

少しずつ“仕事場”の顔をしていった。

女の子は恵美さんが何人か集めているらしい。

募集もかけていた。

今日は面接の日だった。

面接といっても、年齢確認と経験の有無、

経験者なら以前の店やバンスの有無の確認。

要するに、トラブル防止だ。

ファミレスの駐車場に車を停め、車から降りて大きく伸びをした、その時。

「あっ!兄貴!兄貴じゃないですかー!」

背後から声が飛んできた。

振り返ると、手を振りながらこちらに駆けてくる男がいた。

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