75話「始まりの夜」

「お疲れさまでしたー。明日は六時出勤だから、五時半頃迎えにくるね。ゆっくり休んでねー」

弘が笑顔で女の子に手を振る。

深夜三時過ぎ、最後の女の子を自宅に送り届け、月下美人の初日の営業が終わった。

「兄貴、滑り出しは上々っすね。やっぱ兄貴の言った通りのシステムにして正解っすよ!」

当時、今のように届出制のデリヘルはなく、完全な違法営業だった。

その為、この業界は裏の世界に関わりがある者が営業しており、全て店側に有利なシステムになっていた。

今と比べると利用料金は高い。しかし女の子の給与は低い。それが暗黙のルールのようになっていた。

私は女の子が集まりやすく、定着するよう、給与システムを独自の設定に変えていた。

「女の子が取り分多いって喜んでましたよ! っていうか腹減ったっすね」

「そういえば昼飯にマック食べたっきりだったな。ファミレスでも行くか」

「兄貴、了解っす!」

弘は敬礼するポーズをして笑った。

ファミレスに入り、私はハンバーグセット、弘はハンバーグセットのご飯大盛りとスパゲッティを注文した。

二人で今日の店の売上を確認した。

「兄貴、十六万っすよ!」

「すごいな。そんなに上がったのか!」

「何人か待ち時間あったから入らなかったっすけど、スムーズに入ってたら二十万超えてたっすよ!」

一日でこんな金額が動くとは思っていなかった。

この調子でいくと、月にどれくらいの売上になるのだろうか。

恵美さんと折半とはいえ、今まで稼いだことのない金額になるのは間違いない。

弘がハンバーグを切らず、そのままかぶりつきながら言った。

「兄貴、この調子だとドライバーもう一人増やしたがいいっすよ。自分、心当たりあるんで声かけてもいいっすか?」

「でも俺がいるから、今すぐじゃなくても大丈夫だろう?」

弘はスパゲッティを箸ですすりながら言った。

「俺思うんすけど、兄貴は実務業務あまりしないがいいっすよ。だって執行猶予中でしょ。裏で指揮する方がいいっすよ」

「うーん、そうかなぁ?」

「もしもの事があったときヤバいっすから。実務的なことは自分に任せてくださいよ!」

そうだ。

社会に出て慣れてしまい、執行猶予中という足枷がある意識が少し軽くなっていた。

弘の言う通り、もし何かあったときはプラス三年を背負わなければならない。

有頂天になりかけている自分にブレーキをかけなければと思った。

用心するに越したことはない。

そんなことを考えていると――

「兄貴、チョコパフェ頼んでいいっすか!」

その声に我に返った。

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