マンションに戻ると、早苗がキッチンからひょこっと顔を出した。
「おかえりー、早かったね。コーヒー淹れるね」
私はソファーに腰を下ろした。
そして、封筒をテーブルに置いた。
「これ」
早苗は近づいてきて、封筒を見た瞬間に目を丸くする。
「え、ちょっと待って。え、ほんとに?」
帯封をそっと指で押して、
「うわ、重っ。ねえこれ落としたら怒られるよね?いや怒られるどころじゃないか」
くすくす笑いながらも、封筒から手を離す。
そして、少しだけ私を見る目が変わる。
「……よかった。何もなくて」
安堵した眼差しで私を見た。
「心配ないよ。ちゃんと帰ってくるから大丈夫」
そう言って、早苗の頭を撫でた。
「うんうん。分かってる。でもさ、ちゃんと帰ってくる人って、ちゃんと帰ってくる顔してるんだよ」
そう言って、またいつもの調子で笑った。
早苗を店に送り、佐藤さん宅に向かった。
助手席にある五百万が気になり、どこにも寄らず車を走らせた。
玄関を開け声をかけると「上がって」と返ってきたのでリビングに行くと、佐藤さんは椅子に座りビールを飲みながらテレビを観ていた。
私に座るように手で椅子を指差す。私は席につき、封筒が入った紙袋をテーブルに置き、今日の江崎さんとのことを話した。
黙って聞いていた佐藤さんが言った。
「あの婆さん、よくすんなり払ったな。昔は一筋縄じゃいかないくらい元気よかったんだがな」
そう言って、コップのビールを飲み干した。
佐藤さんはテレビを消し、私に向き直る。
ジッと私の目を見た。
その世界の人特有の、値踏みするような鋭い目だ。
「これから、どうやって食べていくの? なにかシノギはあるのか? どこか組織に入るつもりなのか?」
そう言いながら煙草に火をつける。
「あれだったら、わしの下で働かないか?」
私は恵美さんとの仕事のことを説明した。
「そうか。それじゃ困ったことがあればいつでも来るといい」
そう言って、佐藤さんは紙袋を手に取る。
封筒から金を取り出し、帯封を破り、数え始めた。
そして五十万を私の前に置いた。
「取り分だ」
「えっ、こんなにいいんですか?」
「ちょっと遅くなったが、放免祝いも兼ねてのお礼だ」
そう言って笑った。
帰りの車中で、佐藤さんから言われたことを考えた。
組織に入る。
そんなことは全く考えもしなかった。
ただ漠然と、「組織」という言葉だけが頭に残った。
あの頃の私は、何もかもを軽く考えていた。
金も、人も、自分の立ち位置も。
ただ目の前にあることだけを、後先考えず前に進んでいた。
いま思えば、すべてが軽かった。
その軽さが、どれほど重いものになるかも知らずに。

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