「話がある」
そう言った自分の声が、思っていたよりも冷静だった。
喉が震えると思っていたのに、不思議なくらい落ち着いていた。
早苗はすぐにこちらを見た。
驚きも戸惑いもなく、ただ静かに。
その目を見た瞬間。
ずっと言わずにいられたことが、もう隠せないとわかった。
「刺青を入れようと思ってる」
部屋の空気が、わずかに重くなった気がした。
早苗は黙ったまま立ち上がり、コーヒーを淹れた。
マグカップを二つ持って戻ってくると、私の隣に静かに腰を下ろす。
窓から夕陽が差し込み、部屋は茜色に染まっていた。
外ではカラスの鳴き声や車の走る音が混じり合い、夕方の喧騒が広がっている。
それでもこの部屋の中だけは、時計の針の音だけがやけに大きく響いていた。
早苗はマグカップを包み込むように持ち、下を向いたまま言った。
「あなたが、こんなことを言い出すんじゃないかって、うすうす思ってたんだ」
私は頷くだけで、何も言えなかった。
「だからね……少し前から、私なりに覚悟は決めてた」
早苗はコーヒーを一口飲み、ゆっくり顔を上げる。
「あなたは今日覚悟して決めたかもしれないけど、私はもう覚悟できてるよ」
その目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「私はあなたについていく。あなたと一緒に生きていくって決めたの」
胸の奥が強く締めつけられた。
巻き込んでいいのか。
この先に何が待っているのか、私自身わかっていないのに。
それでも――
私は彼女を止めなかった。
早苗を抱き寄せ、力強く抱きしめる。
早苗の身体が小さく震え、静かに泣いているのがわかった。
「ありがとう」
それしか言えなかった。
茜色だった部屋は、いつの間にか紫色へと変わっていた。
窓の外でネオンが滲む。
早苗の指が、私の背中に深く食い込む。
離さない、と言葉にしなくても分かった。


コメント