リトのマンションへ着くと、いつものようにリトはエントランスで待っていた。
私たちに気づくと、笑顔で大きく手を振りながら駆け寄ってくる。
「オー! ナオト!」
そう言うと私の横に立つ弘を見て目を丸くした。
「おっ、ヒロシも一緒だったノ! 久しぶりネ!」
「リト、久しぶり!」
二人は笑顔でハイタッチを交わす。
「さぁ、行こうか」
私が声を掛けると、リトは嬉しそうに後部座席へ乗り込んだ。
車を走らせながら私は尋ねる。
「リト、ご飯は食べたか?」
「いや、まだ食べてないヨ」
「それじゃ飯でも食いながら話そうか」
その言葉に弘が嬉しそうに笑った。
「いいっすね! 男三人で作戦会議っすね!」
リトは少し考えるように窓の外を見たあと、振り返る。
「それじゃラ・カシーナに行こうカ。今シゲさんいないけど」
「シゲさんいないのか?」
「ウン。今フィリピン行ってるヨ」
その話を聞いた弘が嬉しそうに口を開く。
「ラ・カシーナって兄貴が話してたシゲさんの店っすよね!」
「ああ、そうだ」
私は場所を伝える。
「了解っす!」
弘は軽く返事をすると、車をゆっくりと走らせた。
道中、アクセサリー販売のことや仕事の話をしながら、車はラ・カシーナ近くの駐車場へ到着する。
三人でエレベーターに乗り込み、五階へ向かった。
扉が開くと、店内からギターとドラムの心地よい演奏が聞こえてくる。
弘は目を輝かせた。
「俺、生バンドがある店って初めてっすよ」
店の扉を開けると、スタッフがすぐに私たちに気づいた。
「あっ、直人さん。お久しぶりです。リト、いらっしゃい」
笑顔で迎えられ、奥のテーブルへ案内される。
リトは顔見知りのバンドメンバーへ笑顔で手を振り、親しげに言葉を交わしていた。
弘は店内をゆっくり見回しながら呟く。
「ここがシゲさんの店かぁ……」
まだ時間が早く、店内には私たちのほかに一組の客しかいなかった。
私たちは料理とマンゴージュースを注文する。
静かなバンド演奏が店内に心地よく響いていた。
ほどなくしてマンゴージュースが運ばれてくる。
私は一口飲むと、リトへ視線を向けた。
「それでリト。奥さんは何て言ってた?」
リトは表情を引き締める。
「ウン。ナオトが言ってた二十人くらい住める家にするには、だいたい五万ペソくらいだって」
「五万ペソ……」
私は首を傾げた。
「円にしたら、どれくらいになる?」
リトは少し笑った。
「ペソじゃ分からないネ」
少し考えてから答える。
「今だったら二十万円くらいかな」
「えっ、二十万円で出来るのか?」
思わず声が大きくなる。
「ウン。フィリピンは安いからネ」
私は驚きを隠せなかった。
「でもキッチンやトイレ、シャワールームも二つずつ必要だろ?」
「モチロン。それも全部入ってるヨ」
リトは笑顔で続けた。
「扇風機とか、テーブルと椅子を買うお金も入れてだヨ」
「すごいっすね!」
黙って聞いていた弘が目を丸くする。
「フィリピン行ったら俺でも金持ちっすね!」
その一言に私とリトは顔を見合わせ、思わず笑った。
ちょうどそのタイミングで料理が運ばれてくる。
「うまそう! いただきまーす!」
弘は嬉しそうに料理へ箸を伸ばした。
私もリトも食べ始める。
私はリトへ言った。
「それじゃ、まずは寮を完成させるのが先だな。寮がなければ女の子たちも住めない」
「分かった!」
リトは力強く頷く。
「それじゃジョアンに電話して、ナオトがOKしたって伝えるヨ」
「ジョアン?」
私が聞き返すと、リトは少し照れたように笑った。
「ウン。私の奥さんの名前だヨ」
「そうか。初めて名前を聞いたな」
私は笑顔で頷いた。
「お金はすぐ用意する」
そのとき、弘が料理を食べながら思い出したように口を開く。
「兄貴、そう言えばこの前、早苗姐さんがエージェントの仕事のこと心配して俺に聞いてたっす。」
私は弘を見る。
「それで?」
「『私もリトに会ってみたいな』って言ってたっすよ」
その言葉を聞いたリトは不思議そうに首を傾げる。
「サナエ? 誰だイ?」
「あっ!」
突然、弘が店の入り口を指差して立ち上がる。
私とリトが振り返る。
そこにはメイたちが笑顔で店へ入って来ていた。
「オー! ヒロシ!」
メイは弘を見つけると大きく手を振る。
続いて私とリトにも気づき、嬉しそうに笑った。
「ナオトもいるネ!」
弘は私を見る。
「兄貴、ちょっとメイのところ行ってきていいっすか?」
私は笑って頷いた。
「ああ、行ってこい」
弘は嬉しそうにメイたちのテーブルへ向かって行く。
私は楽しそうに話し始めた弘たちを見届けると、静かにリトへ視線を戻した。
店内には、生バンドの穏やかな演奏だけが静かに流れていた。

コメント