267話「未来への準備」

リトのマンションへ着くと、いつものようにリトはエントランスで待っていた。

私たちに気づくと、笑顔で大きく手を振りながら駆け寄ってくる。

「オー! ナオト!」

そう言うと私の横に立つ弘を見て目を丸くした。

「おっ、ヒロシも一緒だったノ! 久しぶりネ!」

「リト、久しぶり!」

二人は笑顔でハイタッチを交わす。

「さぁ、行こうか」

私が声を掛けると、リトは嬉しそうに後部座席へ乗り込んだ。

車を走らせながら私は尋ねる。

「リト、ご飯は食べたか?」

「いや、まだ食べてないヨ」

「それじゃ飯でも食いながら話そうか」

その言葉に弘が嬉しそうに笑った。

「いいっすね! 男三人で作戦会議っすね!」

リトは少し考えるように窓の外を見たあと、振り返る。

「それじゃラ・カシーナに行こうカ。今シゲさんいないけど」

「シゲさんいないのか?」

「ウン。今フィリピン行ってるヨ」

その話を聞いた弘が嬉しそうに口を開く。

「ラ・カシーナって兄貴が話してたシゲさんの店っすよね!」

「ああ、そうだ」

私は場所を伝える。

「了解っす!」

弘は軽く返事をすると、車をゆっくりと走らせた。

道中、アクセサリー販売のことや仕事の話をしながら、車はラ・カシーナ近くの駐車場へ到着する。

三人でエレベーターに乗り込み、五階へ向かった。

扉が開くと、店内からギターとドラムの心地よい演奏が聞こえてくる。

弘は目を輝かせた。

「俺、生バンドがある店って初めてっすよ」

店の扉を開けると、スタッフがすぐに私たちに気づいた。

「あっ、直人さん。お久しぶりです。リト、いらっしゃい」

笑顔で迎えられ、奥のテーブルへ案内される。

リトは顔見知りのバンドメンバーへ笑顔で手を振り、親しげに言葉を交わしていた。

弘は店内をゆっくり見回しながら呟く。

「ここがシゲさんの店かぁ……」

まだ時間が早く、店内には私たちのほかに一組の客しかいなかった。

私たちは料理とマンゴージュースを注文する。

静かなバンド演奏が店内に心地よく響いていた。

ほどなくしてマンゴージュースが運ばれてくる。

私は一口飲むと、リトへ視線を向けた。

「それでリト。奥さんは何て言ってた?」

リトは表情を引き締める。

「ウン。ナオトが言ってた二十人くらい住める家にするには、だいたい五万ペソくらいだって」

「五万ペソ……」

私は首を傾げた。

「円にしたら、どれくらいになる?」

リトは少し笑った。

「ペソじゃ分からないネ」

少し考えてから答える。

「今だったら二十万円くらいかな」

「えっ、二十万円で出来るのか?」

思わず声が大きくなる。

「ウン。フィリピンは安いからネ」

私は驚きを隠せなかった。

「でもキッチンやトイレ、シャワールームも二つずつ必要だろ?」

「モチロン。それも全部入ってるヨ」

リトは笑顔で続けた。

「扇風機とか、テーブルと椅子を買うお金も入れてだヨ」

「すごいっすね!」

黙って聞いていた弘が目を丸くする。

「フィリピン行ったら俺でも金持ちっすね!」

その一言に私とリトは顔を見合わせ、思わず笑った。

ちょうどそのタイミングで料理が運ばれてくる。

「うまそう! いただきまーす!」

弘は嬉しそうに料理へ箸を伸ばした。

私もリトも食べ始める。

私はリトへ言った。

「それじゃ、まずは寮を完成させるのが先だな。寮がなければ女の子たちも住めない」

「分かった!」

リトは力強く頷く。

「それじゃジョアンに電話して、ナオトがOKしたって伝えるヨ」

「ジョアン?」

私が聞き返すと、リトは少し照れたように笑った。

「ウン。私の奥さんの名前だヨ」

「そうか。初めて名前を聞いたな」

私は笑顔で頷いた。

「お金はすぐ用意する」

そのとき、弘が料理を食べながら思い出したように口を開く。

「兄貴、そう言えばこの前、早苗姐さんがエージェントの仕事のこと心配して俺に聞いてたっす。」

私は弘を見る。

「それで?」

「『私もリトに会ってみたいな』って言ってたっすよ」

その言葉を聞いたリトは不思議そうに首を傾げる。

「サナエ? 誰だイ?」

「あっ!」

突然、弘が店の入り口を指差して立ち上がる。

私とリトが振り返る。

そこにはメイたちが笑顔で店へ入って来ていた。

「オー! ヒロシ!」

メイは弘を見つけると大きく手を振る。

続いて私とリトにも気づき、嬉しそうに笑った。

「ナオトもいるネ!」

弘は私を見る。

「兄貴、ちょっとメイのところ行ってきていいっすか?」

私は笑って頷いた。

「ああ、行ってこい」

弘は嬉しそうにメイたちのテーブルへ向かって行く。

私は楽しそうに話し始めた弘たちを見届けると、静かにリトへ視線を戻した。

店内には、生バンドの穏やかな演奏だけが静かに流れていた。

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