「良いタレント……」
私は思わず呟くように口にした。
黒木ママはコーヒーカップを手に取り、一口飲むと穏やかに微笑む。
「うん。直人くんが考える良いタレントって、どんなタレントかしら?」
私は少し考えてから答えた。
「綺麗で、スタイルが良い……。でも、それだけじゃないと思うんです」
その言葉を聞くと、ママは少し目を大きくした。
「うん。それだけじゃないなら、何が足りないのかしら?」
私は茉莉花や花水木で働く女の子たちの顔を思い浮かべる。
「はい。綺麗で可愛くて、スタイルも良いに越したことはないと思います。でも、一番大切なのは笑顔や気遣いができること。それと……」
私は少し言葉を選んだ。
「お金の匂いをあからさまに感じさせないことですかね」
ママは何度も頷いた。
「うん。その考え方、私は好きよ」
そう言うと、テーブルにカップを静かに置いた。
「例えば、直人くんがやっているアクセサリー販売は、お客様と直接向き合う仕事でしょう? だから相手の反応や表情を見ながら接客ができる」
私は静かに頷く。
「でも、私のフィリピンクラブや、直人くんがやっている風俗のお仕事は違うの」
ママは私の目を見つめながら続けた。
「実際に接客をするのはタレントや女の子たち。私たちは、その場にずっといるわけじゃない。だから、お客様にどんな接客をしているのか、私たちの目が届かないことの方が多いのよ」
私は黙って耳を傾ける。
「だからこそ、店とタレントとの信頼関係が何より大切なの」
その言葉には迷いがなかった。
「私の店は、一度雇ったタレントには半年間働いてもらう決まりなの。だから、『思っていた子と違った』と思っても、その期間は一緒に仕事をする。でも、次にリクエストすることはないわ」
私は黒木ママの話を聞きながら、その責任の重さを改めて感じていた。
「逆に、今うちで働いてくれているタレントのほとんどは、私が何度もリクエストして来てもらっている子たちなの」
ママは優しく微笑む。
「もちろん、リクエストするたびに、お給料や待遇も少しずつ良くしているわ。頑張ってくれる子には、私もきちんと応えたいもの」
そう言ってコーヒーを一口飲むと、私を真っ直ぐ見つめた。
「だからね、私は人を見るの」
その一言に、長年この仕事を続けてきた重みがあった。
「直人くんなら――」
少しだけ微笑む。
「きっと、良いタレントを見つけられるような気がするの」
私はその言葉を胸の中で静かに受け止めていた。

コメント