私は携帯電話を耳に当てた。
数回のコールのあと、弘が電話に出る。
「お疲れっす!」
いつもの元気な声が聞こえてきた。
「弘、お前のアクセサリー販売デビュー、今日になったぞ」
私は少し笑いながら言った。
「えっ! マジっすか!」
一瞬の沈黙のあと、電話の向こうから弾んだ声が返ってくる。
「やったー!」
その喜びように、思わず笑みがこぼれた。
「花水木が落ち着いたら、大介と美咲にアクセサリー販売へ行ってくるって伝えて、美緒のマンションへ来い」
「了解っす! それじゃ後で!」
弘は嬉しそうにそう言うと電話を切った。
携帯電話をテーブルへ置くと、美緒が微笑んでいた。
「弘さん、すごく喜んでたみたいだね」
「ああ」
「弘さんはね、直人さんから頼りにされることとか、一緒に仕事ができることが嬉しいんだと思うよ」
私は少し笑った。
「そうかぁ」
言われてみれば、弘は昔からそんな男だった。
頼られることを素直に喜び、その期待に応えようと全力を尽くす。
そんなところが、あいつらしい。
二人で他愛もない話をしていると、いつの間にか時間は過ぎていった。
その時、部屋のインターホンが鳴る。
美緒が受話器を取った。
「はーい」
少し間を置いてから微笑む。
「そのまま上がってきてください」
受話器を置き、私を見る。
「弘さん来たよ」
「ああ」
しばらくすると、玄関の方から元気な声が聞こえてきた。
「お疲れっす! お邪魔します!」
美緒が玄関へ向かう。
二人の笑い声が聞こえたあと、弘がリビングへ入ってきた。
部屋を見渡し、大きく息を吸う。
「あっ、久しぶりの美緒ちゃんの部屋の匂いだ! いい匂いっすねー」
私は思わず吹き出した。
「お前、前に来た時も同じこと言ってたな」
「そうでしたっけ?」
弘は照れくさそうに頭をかきながら笑う。
「ほら、早く座れよ」
「はいっ!」
キッチンでは美緒がコーヒーを淹れながら笑っていた。
三人でコーヒーを飲みながら、他愛もない話をする。
しばらくすると、美緒が時計へ目を向けた。
「そろそろ準備しなきゃだね」
そう言って立ち上がると、テーブルの上へアクセサリーを並べ始めた。
「弘さん、値札の価格からの値引きはこれくらい。現金払いなら、このくらいまでなら大丈夫だからね」
一つひとつ商品を手に取りながら丁寧に説明していく。
販売用の書類や計算方法、商品の管理方法まで、一つずつ確認していく美緒。
弘はメモを取りながら、美緒の説明を一つも聞き漏らすまいと真剣な表情で頷いていた。
分からないことがあるたびに質問し、その答えをもう一度確認する。
そんな姿を見ていると、弘が本気でこの仕事に向き合おうとしていることが自然と伝わってきた。
説明が終わり、アクセサリーや書類をトランクケースへ詰め終えた頃だった。
美緒の携帯電話が鳴る。
画面を見ると、メイからだった。
「もしもし」
美緒は笑顔になる。
「うん、仕事終わって今からマンションに帰るんだね。分かった。それじゃ今から行くね」
電話を切ると、私たちを見る。
「仕事が終わって、今から帰るんだって」
私は立ち上がった。
「よし、それじゃ行くか」
弘も少し緊張した表情で立ち上がる。
「はい!」
その返事には期待と緊張が入り混じっていた。
いよいよ、弘のアクセサリー販売デビューが始まろうとしていた。

コメント