弘の車に乗り込み、私は助手席、美緒は後部座席へ座った。
車はゆっくりと走り出し、MAHALのタレントたちが暮らすマンションへ向かう。
いつもなら賑やかな弘だったが、この日は妙に静かだった。
真剣な表情でハンドルを握りながら、何やら小さな声でぶつぶつと呟いている。
耳を澄ませると、美緒から教わった販売の流れや値引きの説明を何度も復唱していた。
私は思わず笑う。
「そんなに緊張してるのか?」
弘は少し照れくさそうに笑った。
「初日っすからね。失敗したくないんすよ」
その言葉に、美緒も優しく微笑んだ。
「大丈夫。弘さんならすぐ慣れるよ」
その一言に、弘は静かに頷いた。
マンションへ到着すると、私たちはまずリトの部屋へ向かった。
インターホンを押すと、すぐにドアが開く。
「あっ、ヒロシ!」
弘の姿を見たリトは目を丸くした。
「今日から弘も一緒にアクセサリー販売をすることになったから」
私がそう言うと、弘は笑顔で頭を下げる。
「今日から頑張るからよろしく!」
リトは嬉しそうに笑った。
「オー! ヒロシは似合ってるヨ!」
その言葉に、弘の表情から少し緊張が消えた。
「それじゃ、メイたちが待ってるから行こうか」
美緒の声で四人はエレベーターへ乗り込み、タレントたちの部屋へ向かった。
リトがドアを開ける。
「ミオー! 待ってたよー!」
部屋の中から賑やかな声が響いた。
「あれ? ヒロシ!」
メイも弘に気付き、笑顔で手を振る。
「今日から俺もアクセサリー販売することになったよ!」
弘がそう言うと、部屋の空気はさらに明るくなった。
弘はアクセサリーのケースを両手で抱え直し、小さく深呼吸をする。
テーブルの上へアクセサリーが並べられ、販売が始まる。
メイは初めて来たタレントたちを美緒へ紹介していく。
美緒は英語で商品の説明をしながら、一人ひとりの好みに合わせてアクセサリーを勧めていく。
弘はその隣でアクセサリーを手渡したり、鏡を渡したりしながら笑顔で接していた。
最初は少しぎこちなかった表情も、時間が経つにつれて自然な笑顔へ変わっていく。
リトはタガログ語で説明を加え、タレントたちとの橋渡しをしていた。
私は少し離れた場所から、その様子を眺める。
美緒の英語に混じり、弘はどこで覚えたのか、日本語へ少しだけタガログ語を交えながら楽しそうに話している。
その冗談に部屋中が笑いに包まれ、いつも以上に賑やかな時間が流れていた。
誰かが指示を出したわけでもない。
それでも自然と役割ができ、それぞれが自分にできることをしている。
私は四人の姿を見ながら、思わず心の中で感心していた。
――いいチームになってきたな。
販売が終わると、タレントたちは笑顔で私たちを見送ってくれた。
「バイバーイ!」
「また来てねー!」
賑やかな声に手を振り返しながら部屋を後にする。
廊下へ出ると、弘は大きく息をついた。
「いやぁ、思ったより緊張したっす」
そう言いながらも、その表情はどこか誇らしげだった。
美緒も笑顔で頷く。
「でも、すごく良かったよ。みんな楽しそうだった」
「本当に?」
「うん。弘さんらしくて良かった」
その言葉に弘は照れくさそうに笑った。
エレベーターを待っていると、リトが静かに私を見た。
「ナオト。」
「うん?」
「エージェントの事で話があるヨ。」
私はリトの表情を見つめ、小さく頷いた。

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