早苗がホームページ作成を引き受けてくれることになった。
私は茉莉花を出る前に、弘へ電話を掛けた。
「もしもし、弘か?」
「はい、お疲れっす」
「ホームページの件だけど、早苗が作ってくれることになったぞ」
電話の向こうで、弘の声が少し弾む。
「本当っすか!」
「ああ。詳しい話は会ってからしよう」
「分かりました。じゃあ駅前の駐車場で待ってます」
電話を切ると、私は早苗へ声をかけた。
「弘と会って話してくる」
「うん、行ってらっしゃい」
早苗は笑顔で手を振る。
私は軽く手を挙げ、そのまま茉莉花を後にした。
車を走らせ、駅前の駐車場へ向かう。
着くと、弘はすでに到着していた。
私は弘の車の隣へ車を停める。
すると弘は紙カップを二つ持って車を降り、そのまま私の車の助手席へ乗り込んできた。
「はい。兄貴、いつものっす」
差し出されたのは、私がよく飲むコーヒーショップのホットコーヒーだった。
「ありがとうな」
私は笑いながら受け取る。
「早苗姐さんが作ってくれるんすね」
弘は嬉しそうに言った。
「うん。美緒は今、LINK CORPORATIONの仕事に花水木、それにアクセサリー販売もあって忙しいからな」
「ああ、美緒ちゃん、アクセサリー販売が始まってから本当に忙しそうっすもんね」
私はコーヒーを一口飲む。
「とりあえず、その箱ヘルのオーナーに、どんなホームページを作ってほしいのか聞いてみろ」
「あっ、了解っす」
弘はそう言うと、すぐに携帯電話を取り出した。
「今から聞いてみていいっすか?」
私は思わず笑う。
「今から? 電話でか?」
「はい」
「会ってから聞いた方がいいんじゃないか? 急がなくてもいいんだぞ」
すると弘は笑った。
「こういうのは早い方がいいんすよ。それに、そんなにかしこまった関係じゃないんす」
そう言って電話を掛け始めた。
私はコーヒーを飲みながら、その様子を黙って見ていた。
弘は終始敬語で話している。
けれど、そのやり取りはどこか柔らかく、よそよそしさは感じない。
相手も時折笑いながら応じているようで、電話越しでも二人の距離の近さが伝わってきた。
時折笑い声も交えながら話す姿を見ていると、相手との信頼関係が自然と伝わってきた。
数分後。
「それじゃあ、また連絡しますね」
そう言って電話を切る。
弘は携帯をダッシュボードに置き、ほっとしたように笑い私を見る。
「うちと同じようなホームページで、あとは任せるって言ってるっす」
少し間を置いて思い出したように付け加える。
「あっ、それと箱ヘルなんで、店の住所と地図だけは入れてほしいって言ってました」
「分かった」
私は頷いた。
「そのオーナーって、どんな人なんだ?」
弘は少し遠くを見るような表情になった。
「知り合ったのは去年っすね。まだ月下美人を始めた頃、駅でちょくちょく顔を合わせるようになって。同業者っぽかったんで、俺から話しかけたのがきっかけなんすよ」
私は黙って耳を傾ける。
「話してるうちに気が合うっていうか……悪い人間じゃないなって思うようになったんす」
弘は懐かしそうに笑う。
「店の話をしてても、女の子を本当に大事にしてるのが伝わってくるんすよ」
私は静かに頷いた。
弘が他の同業者を、こんなふうに話すのを聞いたのは初めてだった。
これまで何人もの人間を見てきた弘が、「気が合う」と口にする相手だ。
きっと、人として信頼できる男なのだろう。
私はそう思いながら、残っていたコーヒーを静かに飲み干した。

コメント