美緒と弘の話が終わると、美緒はコーヒーカップを持って立ち上がった。
「洗い物してくるね」
そう言ってキッチンへ向かう。
私はソファーに腰掛けたまま、その後ろ姿を眺めていた。
弘が言っていたホームページ作成依頼のことが頭をよぎる。
『美緒に話してみる』
そう弘には答えた。
けれど、今の美緒はLINK CORPORATIONの集金に、花水木の仕事、アクセサリー販売の準備と毎日忙しく動いている。
そこへホームページ作成まで加われば、負担が大きすぎる。
きっと美緒なら、何も迷わず引き受ける。
だからこそ、頼めなかった。
私は腕を組み、しばらく考える。
すると、一人の顔が浮かんだ。
――早苗。
茉莉花が始まる前、暇さえあればホームページ作成の勉強をしていた。
「あ……そうか」
思わず小さく呟く。
一度、早苗に聞いてみよう。
私は立ち上がった。
「美緒、ちょっと茉莉花に行ってくる」
キッチンから美緒が顔を覗かせる。
「どうしたの? 何かあった?」
「いや、大したことじゃないよ。すぐ戻る」
「そっか。気を付けてね」
私は軽く手を挙げ、そのままマンションを後にした。
車を走らせ、茉莉花へ向かう。
店に着くと、ちょうど里奈ちゃんが送迎へ出掛けるところだった。
「里奈ちゃん、お疲れ」
「あっ、直人くん!」
里奈ちゃんは笑顔で振り返る。
「早苗なら二階にいるよ。ごめん、ちょっと急いでるからまたね!」
そう言うと慌ただしく車へ乗り込み、窓から手を振りながら走り去っていった。
私は笑みを浮かべながら二階へ上がる。
部屋のドアを開けると、ソファーに座った早苗が書類を広げて何か作業をしていた。
「あっ、おかえり!」
早苗は立ち上がり、いつもの笑顔を見せる。
「ただいま」
「コーヒー淹れてくるね」
そう言って一階へ下りていく。
私はソファーにもたれ、部屋を見渡した。
しばらくすると、早苗がコーヒーとシュークリームを乗せたトレーを持って戻ってきた。
「はい、お待たせ」
テーブルへ並べると、私の隣へ腰を下ろす。
私はコーヒーを一口飲んでから口を開いた。
「早苗って、ホームページ作ったりできるのか?」
「えっ?」
早苗は少し驚いたように私を見る。
「どうしたの、急に」
「いや、茉莉花が始まる前、ずっとホームページの勉強してただろ? あれって今なら作れたりするのかなって思ってさ」
早苗は少し照れくさそうに笑った。
「うん。自分で言うのもなんだけど、かなり勉強したから、今の茉莉花のホームページくらいなら作れると思うよ」
そして首を傾げる。
「でも、どうして?」
私は弘から受けたホームページ作成依頼の話を最初から最後まで話した。
早苗は途中で口を挟むことなく、静かに耳を傾けていた。
話し終えると、早苗は少しだけ視線を落とす。
カップをそっと持ち上げ、一口だけコーヒーを飲んだ。
そして優しく微笑んだ。
「……私、やってみたい」
その一言に、私は思わず笑顔になる。
「そうか。やってくれるか」
「うん」
早苗は嬉しそうに頷く。
「あなたは金融の仕事もしてるし、アクセサリー販売も始めたでしょ」
私は静かに頷いた。
「だから私も、何か力になりたいもん。ホームページなら私にもできると思うし」
その言葉を聞いた私は、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
「ありがとう、早苗」
そう言うと、早苗は少し照れくさそうに笑った。

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