241話「右腕」

私は弘の顔を見つめた。

「それでアクセサリー販売をやりたいと思ったのか?」

弘は一度小さく息を吸い、真っすぐ私を見た。

「去年、兄貴と再会したじゃないっすか」

私は黙って頷く。

「あの時から兄貴と一緒に月下美人を立ち上げて、LINK CORPORATIONを始めるときも声を掛けてもらって……」

弘は照れくさそうに笑った。

「俺、そんなに力になれてないかもしれないっすけど」

「そんなことはない」

私はすぐに言った。

「お前には何度も助けられてる」

弘は少しだけ嬉しそうな表情を浮かべたが、すぐに俯いた。

「でも……アクセサリー販売は俺、関わってないじゃないっすか」

店内に少しだけ静かな時間が流れる。

「去年、兄貴と再会した時から決めてるんすよ」

弘はゆっくり顔を上げた。

「兄貴についていくって」

その言葉に迷いはなかった。

「だから……なんか俺だけ蚊帳の外みたいで」

照れ笑いを浮かべながら頭をかく。

私はそんな弘を見て思わず笑ってしまった。

「お前……もしかして寂しいのか?」

「えっ?」

弘は慌てて両手を振る。

「いやいや! そんなんじゃないっすよ!」

「じゃあ何なんだ?」

私は少し意地悪そうに笑う。

弘は困ったように頭を掻いた。

「いや……寂しくない訳じゃないっすけど……」

その言葉に私は吹き出した。

「正直だな、お前は」

二人で顔を見合わせて笑う。

笑いが落ち着くと、私はコーヒーカップを手に取った。

静かに一口飲み、テーブルへ戻す。

弘は何も言わず、私の返事を待っていた。

私はゆっくり弘を見つめる。

「あのな、弘」

弘は姿勢を正した。

「俺は、お前を右腕だと思ってる」

弘の表情が少し変わる。

「相棒だとも思ってる」

私は穏やかに笑った。

「そして、大事な弟分だ」

弘は黙ったまま私を見つめている。

「だから、お前が蚊帳の外なんて思ったことは一度もない」

私は少し間を置いて微笑んだ。

「実はな、お前にもいずれ声を掛けようと思ってた」

弘は目を丸くする。

「一緒にアクセサリー販売をやろう」

一瞬、弘は何が起きたのか分からないような顔をした。

次の瞬間。

「やったぁ!」

子どものような笑顔を浮かべ、思わず拳を握りしめる。

「ありがとうございます! 兄貴!」

その無邪気な姿を見て、私は思わず笑った。

弘は胸を撫で下ろしながら椅子にもたれ掛かる。

「安心したら腹減ってきたっす」

そう言うと、メニューを手に取った。

「サンドウィッチ頼んでいいっすか?」

「好きなの頼め」

私が笑いながら答えると、弘はすぐに店員を呼んだ。

その姿は、さっきまで真剣な話をしていた男とは思えないほど嬉しそうだった。

そんな弘を見ながら、私は静かに思った。

弘となら、これから先どんな困難が待っていても、一緒に乗り越えていける。

そんな気がしていた。

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