恵美のマンションを出て車に乗り込むと、携帯電話にメールが届いていることに気づいた。
弘からだった。
『お疲れです。時間がある時に連絡ください』
短い文章だったが、何かあったのだろうか。
私はすぐに電話をかける。
「兄貴、お疲れっす」
弘はワンコールで電話に出た。
「おう、お疲れ。何かあったのか?」
「兄貴、時間あるならちょっと会えないっすか?」
「いいぞ。どこにいる?」
「駅前のファミレスならすぐ行けるっす」
「分かった。じゃあそこで」
電話を切り、私は駅前へ車を走らせた。
ファミレスへ着くと、弘は店の入口で待っていた。
「兄貴、お疲れっす」
「お疲れ」
二人で店に入り、奥のテーブル席へ座る。
注文を取りに来た店員へ、私はコーヒーを、弘はチョコパフェとコーヒーを頼んだ。
注文を終えると、私は弘を見る。
「優良店会のことか?」
弘は慌てて手を振った。
「いやいや、今日は優良店会の話じゃないっす」
そう言って苦笑いする。
「実はですね、知り合いで箱ヘルしてる人がいるんすよ。少し前に知り合った人なんすけど」
「その人とトラブったのか?」
「違いますって」
弘は思わず吹き出した。
「トラブルじゃないんすよ」
「そうか」
私は安心してコーヒーに口をつける。
ちょうどそのタイミングで注文した品が運ばれてきた。
弘は嬉しそうにチョコパフェを眺めてから話を続けた。
「その人が、うちのホームページ見たらしいんすよ。それで『すごいですね。どこの業者に頼んだんですか?』って聞かれたから、『うちは自分たちで作ってます』って言ったんすよ」
どこか誇らしげな表情だった。
「そしたら、ものすごく驚いて、『もし可能なら、自分の店のホームページも作ってもらえませんか』って頼まれたんすよ」
「へぇ……」
私は思わず感心した。
「俺はホームページのことなんて全然分からないし、金額も決められないから、とりあえず上の人に聞いてみますって返事しといたんすよ」
私は小さく頷いた。
「そうか。ホームページの作成依頼が来るとは思わなかったな」
「俺も思わなかったっす」
「営業はお前の方が向いてるのかもしれないな。俺だったら、そんな話は取ってこられなかった」
「そんなことないっすよ」
弘は照れ笑いを浮かべながら頭をかいた。
「でも、こうして声を掛けてもらえたのは嬉しかったっす」
私はそんな弘を見て、小さく笑った。
「少しずつまわりから信用されるようになってきたってことだな」
「そうだったら嬉しいっす」
弘は素直に頷いた。
「でも兄貴も俺も中卒だから、コンピューターなんて全然分からないっすよね」
「お前なぁ」
私は苦笑した。
「まあ、確かに中卒だけどな」
二人で顔を見合わせて笑う。
「でも、実際に作ったのは美緒だからな。一度、美緒に聞いてみるよ」
「そうっすね」
弘は満足そうにチョコパフェを一口食べた。
しばらく他愛もない話をしていると、弘がふと思い出したように口を開く。
「ところで兄貴、アクセサリー販売の方はかなり順調みたいっすね」
「ああ。リトや美緒のおかげでな」
私がそう答えると、弘はスプーンを皿の上へ静かに置いた。
さっきまでの笑顔が少しだけ引き締まる。
「兄貴……お願いがあるっす」
「どうした?」
私は弘の表情を見て聞き返した。
弘は真っすぐ私を見つめる。
「ホームページの話が来て、俺もちょっと考えたんすよ」
私は黙って弘の続きを待った。
「人から仕事を任されるのって、やっぱり嬉しいじゃないっすか。俺ももっと仕事を覚えて、兄貴の役に立ちたいって思ったんすよ」
弘は少し照れたように笑う。
「だから……俺もアクセサリー販売を、一緒にやりたいっす」
私は思わず弘の顔を見つめた。
それは予想もしていなかった申し出だった。

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