234話「未来への第一歩」

気がつけば、駅のロータリーには始発電車を待つ人の姿がちらほら見え始めていた。

空も、ほんのわずかに白み始めている。

「もう始発の時間か」

私がそう呟くと、リトも空を見上げて苦笑した。

「いっぱい話したネ」

「ああ」

私は笑って頷いた。

「じゃあ、まず何から始めればいいか決めよう」

リトは真剣な表情で私を見る。

「リトはフィリピンサイドでエージェントをするには何が必要なのか調べてみてくれ。資格や手続き、紹介会社のことでも何でもいい。」

「ウン」

「俺は日本サイドを調べる。制度や法律、受け入れ先のことも含めて、一つずつ整理してみるよ」

リトは力強く頷いた。

「次に会う時、お互い調べたことを持ち寄ろう」

「ウン。頑張るヨ」

その返事は、もう迷いのない声だった。

私は車を走らせ、リトをマンションまで送る。

車を降りる前、リトはもう一度こちらを向いた。

「ナオト」

「ん?」

「本当にありがとう」

私は笑って頷いた。

「これからが始まりだからな」

リトは嬉しそうに笑い、軽く手を振ってマンションへ入っていった。

その後ろ姿が見えなくなるまで見送り、私は美緒のマンションへ向かった。

マンションへ着いた頃には、すっかり朝になっていた。

美緒はもう寝ているだろう。

そう思い、インターホンは鳴らさず鍵で静かにドアを開ける。

すると玄関には、美緒が立っていた。

「おかえり」

優しい笑顔だった。

その一言だけで、不思議なくらい疲れが和らいでいく。

「ただいま」

私が笑うと、美緒も安心したように微笑んだ。

「コーヒー淹れるね」

そう言ってキッチンへ向かう。

私はリビングのソファーへ腰を下ろし、大きく息をついた。

しばらくすると、美緒がトレーを持って戻ってきた。

淹れたてのコーヒーと、きれいに切り分けられたサンドウィッチ。

「夜中に作っておいたの。お腹空いてると思って」

私は思わず笑ってしまう。

「ありがとう。本当にお腹減ってたんだ」

「いただきます」

二人でコーヒーを飲みながら、サンドウィッチを口に運ぶ。

「それで、リトどうだった?」

私はロータリーで話したことを、美緒へゆっくりと話した。

リトが覚悟を決めたこと。

自分から手を差し出してくれたこと。

そして──

『ナオトは、もう友達じゃないヨ。ファミリーと同じだヨ』

そう言ってくれたこと。

話し終えると、美緒は嬉しそうに微笑んだ。

「良かったね」

私は静かに頷く。

「うん」

「リトは、エージェントの仕事の方が絶対に向いてるよ」

その言葉に、私も自然と笑みがこぼれた。

「これからは準備だな」

「そうだね。何から始める?」

二人で思いつくことを一つずつ挙げていく。

必要な知識。

日本とフィリピン、それぞれの制度。

人との繋がり。

経験。

焦らず、一歩ずつ。

そんな話をしているうちに、一人の顔が頭に浮かんだ。

「あっ……」

「どうしたの?」

私は美緒を見た。

「シゲさんだ」

「シゲさん?」

「あの人なら、この仕事のことをよく知ってる。相談すれば、きっと何かヒントをもらえる」

美緒は納得したように頷いた。

「うん。それがいいね」

私はコーヒーカップをそっと置いた。

次に会う相手は決まった。

未来へ向かう最初の一歩は、もう始まっていた。

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