しばらくの間、車内には静かな時間が流れていた。
私は何も言わず、リトを見つめる。
リトも私を見つめ返していた。
その瞳は潤んでいたが、不思議と迷いは感じられなかった。
やがてリトは、ゆっくりと右手を差し出した。
何も言わない。
ただ、その手には想いが込められているようだった。
私は小さく頷き、自分の手を差し出す。
リトは私の手を握ると、もう片方の手を重ね、両手で包み込んだ。
その手は思っていたよりも力強かった。
まるで、自分の覚悟を伝えるように。
しばらくそのまま、お互い何も話さなかった。
車の外では、ロータリーを行き交う車の音だけが静かに聞こえている。
やがてリトが口を開いた。
「……ナオト」
小さな声だった。
けれど、その声には確かな決意が宿っていた。
「ありがとう」
私は黙って頷く。
リトは少し照れくさそうに笑った。
「ナオトは、もう友達じゃないヨ」
私は首を傾げる。
リトは私の目をまっすぐ見つめた。
「ファミリーと同じだヨ」
胸の奥が熱くなった。
私は何も言わず、握っている手に少しだけ力を込める。
リトも応えるように握り返してきた。
自然と二人で笑みがこぼれた。
少し照れくさい。
でも、その笑顔には言葉以上のものがあった。
しばらくしてリトは前を向き、小さく笑う。
「エージェントの仕事なんて、考えたこともなかったヨ」
「そうだろうな」
私も笑う。
「でも……」
リトの表情が少しだけ真剣になる。
「本当にできるかナ?」
その言葉に、私はゆっくり頷いた。
「最初から大きなことをやる必要はないさ」
リトは黙って聞いている。
「少しずつ準備すればいい。知識も、人との繋がりも、一つずつ増やしていけばいいんだ」
私は穏やかな口調で続けた。
「焦る必要なんてない。俺も一緒にやるんだから」
リトは私を見つめた。
さっきまで浮かんでいた不安が、少しずつ消えていくのが表情から伝わってくる。
そして、ゆっくりと頷いた。
「ウン」
その笑顔は、さっきよりもずっと明るかった。
「ナオトと一緒なら……きっと頑張れるヨ」
その言葉を聞いた瞬間、私は心から安心した。
「ああ。一緒に頑張ろう」
私はそう言って笑った。
リトも大きく頷く。
そして私たちはもう一度、固く手を握り合った。
それは、新しい仕事の約束ではない。
互いの未来を支え合うと決めた、二人だけの約束だった。
夜のロータリーを走る車の灯りが、静かに流れていく。
その光景を眺めながら、私はそっと思った。
私たちの未来もまた、ゆっくりと動き始めていた。

コメント