229話「相談があるヨ」

シゲさんは腕時計に目をやると、少し驚いたように眉を上げた。

「おっ、もうこんな時間か」

そう言って立ち上がる。

「悪いな。俺も仕事の準備があるんだ」

店の奥を見ると、ミッシェルたちもそれぞれ仕事の準備を始めていた。

「こちらこそ、今日はありがとうございました」

私が頭を下げると、シゲさんは笑った。

「今度はラ・カシーナでな」

「えぇ」

私も笑顔で頷く。

その後、私たちはママのところへ挨拶に向かった。

「今日はありがとうございました」

私がそう言うと、ママは笑顔を浮かべた。

「こちらこそありがとう」

そして思い出したように言う。

「そうだ。指輪のサイズ直しが終わったら連絡ちょうだい」

そう言って携帯電話を取り出した。

「番号交換しとこうか」

「はい」

私は携帯を取り出し、ママと連絡先を交換した。

「出来上がり楽しみにしてるからね」

「分かりました」

ママは満足そうに頷いた。

店を出る頃には、飲屋街はすっかり目を覚まし、酒屋や業者の人たちが忙しそうに行き交っていた。

「マンションに送ろうか?」

私はリトに聞く。

「私は帰らないで、このまま仕事に行くヨ」

「え、もう?」

美緒が目を丸くした。

「まだ時間あるネ」

リトは笑う。

「どこかで時間つぶすヨ」

「それなら何か食べていく?」

美緒が提案した。

「いいね。賛成」

私が頷くと、リトも嬉しそうに笑った。

「ウン!」

私たちは近くのファミレスへ向かった。

窓際の席に座り、軽く食事を注文する。

料理が運ばれてくると、自然と今日の販売の話になった。

「思った以上に売れたね」

美緒が嬉しそうに言う。

「ウン。ビックリしたヨ」

リトも笑った。

「やっぱりミッシェルの言った通りだったな」

私はコーヒーを飲みながら言った。

「花水木とか茉莉花で売れてたようなデザインばっかりだった」

「そうだネ」

リトは頷く。

「タレントの子たち、ああいう可愛いの好きだヨ」

「現金で買う人も多かったしな」

「ウン」

三人で今日の出来事を振り返る。

クラブ黒木での販売は予想以上の結果だった。

MAHALの販売も順調に伸びている。

気が付けば、アクセサリーの仕事は少しずつ軌道に乗り始めていた。

私はテーブルの横に置いていたバッグから一つの封筒を取り出した。

「そうだ」

リトが顔を上げる。

私は封筒を差し出した。

「これ、アクセサリー販売のリトの給料だよ」

リトは封筒を見つめた。

そして、さっきまでの明るい笑顔を少しだけ消した。

「……」

珍しく真面目な顔になる。

私は首を傾げた。

「どうした?」

リトはしばらく封筒を見つめていたが、やがて静かに首を横に振った。

「ナオト……」

「ん?」

「これは私、いいヨ」

「え?」

思わず聞き返す。

「どうして?」

リトは少し考えるように視線を落とした。

店内の賑やかな声が、妙に遠く聞こえる。

やがてリトは顔を上げた。

そして私を真っ直ぐ見た。

「ナオト……ちょっと相談があるヨ」

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