シゲさんは腕時計に目をやると、少し驚いたように眉を上げた。
「おっ、もうこんな時間か」
そう言って立ち上がる。
「悪いな。俺も仕事の準備があるんだ」
店の奥を見ると、ミッシェルたちもそれぞれ仕事の準備を始めていた。
「こちらこそ、今日はありがとうございました」
私が頭を下げると、シゲさんは笑った。
「今度はラ・カシーナでな」
「えぇ」
私も笑顔で頷く。
その後、私たちはママのところへ挨拶に向かった。
「今日はありがとうございました」
私がそう言うと、ママは笑顔を浮かべた。
「こちらこそありがとう」
そして思い出したように言う。
「そうだ。指輪のサイズ直しが終わったら連絡ちょうだい」
そう言って携帯電話を取り出した。
「番号交換しとこうか」
「はい」
私は携帯を取り出し、ママと連絡先を交換した。
「出来上がり楽しみにしてるからね」
「分かりました」
ママは満足そうに頷いた。
店を出る頃には、飲屋街はすっかり目を覚まし、酒屋や業者の人たちが忙しそうに行き交っていた。
「マンションに送ろうか?」
私はリトに聞く。
「私は帰らないで、このまま仕事に行くヨ」
「え、もう?」
美緒が目を丸くした。
「まだ時間あるネ」
リトは笑う。
「どこかで時間つぶすヨ」
「それなら何か食べていく?」
美緒が提案した。
「いいね。賛成」
私が頷くと、リトも嬉しそうに笑った。
「ウン!」
私たちは近くのファミレスへ向かった。
窓際の席に座り、軽く食事を注文する。
料理が運ばれてくると、自然と今日の販売の話になった。
「思った以上に売れたね」
美緒が嬉しそうに言う。
「ウン。ビックリしたヨ」
リトも笑った。
「やっぱりミッシェルの言った通りだったな」
私はコーヒーを飲みながら言った。
「花水木とか茉莉花で売れてたようなデザインばっかりだった」
「そうだネ」
リトは頷く。
「タレントの子たち、ああいう可愛いの好きだヨ」
「現金で買う人も多かったしな」
「ウン」
三人で今日の出来事を振り返る。
クラブ黒木での販売は予想以上の結果だった。
MAHALの販売も順調に伸びている。
気が付けば、アクセサリーの仕事は少しずつ軌道に乗り始めていた。
私はテーブルの横に置いていたバッグから一つの封筒を取り出した。
「そうだ」
リトが顔を上げる。
私は封筒を差し出した。
「これ、アクセサリー販売のリトの給料だよ」
リトは封筒を見つめた。
そして、さっきまでの明るい笑顔を少しだけ消した。
「……」
珍しく真面目な顔になる。
私は首を傾げた。
「どうした?」
リトはしばらく封筒を見つめていたが、やがて静かに首を横に振った。
「ナオト……」
「ん?」
「これは私、いいヨ」
「え?」
思わず聞き返す。
「どうして?」
リトは少し考えるように視線を落とした。
店内の賑やかな声が、妙に遠く聞こえる。
やがてリトは顔を上げた。
そして私を真っ直ぐ見た。
「ナオト……ちょっと相談があるヨ」

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