美緒のマンションに通うことが、いつの間にか当たり前になっていた。
夜になるとそこにいて、
朝になると一度自分の生活に戻る。
そんな繰り返しが、妙にしっくりきていた。
このまま続いていくんだろうと、
なんとなく思っていた。
美緒はホームページを作ると言った日から、パソコンに向かう時間が少しずつ増えていった。
大学時代の友達に連絡を取りながら、
分からないことを一つずつ潰していく。
画面に映る文字やデザインは、私にはよく分からなかったが、
それでも確実に“形”になっていくのは伝わってきた。
「よしっ!今日はここまで。続きはまた明日」
美緒はそう言うと、ノートパソコンを閉じた。
「昼間からずっとしていたんだろ?疲れたんじゃないか」
目頭を指で押さえている美緒に言った。
「大丈夫です。パソコンは昼間に集中して、夜はあまりしないようにしてますから」
「昼の方がはかどるのか?」
「だって夜は直人さんが来るから。
パソコンしてたら放ったらかしになって、構ってあげられないじゃないですか」
「あっ、なんか俺、子供扱いじゃないか」
「直人さんて、子供みたいなところありますよ」
美緒はクスッと笑った。
「どこがだよ」
「うーんとね。ケチャップやチョコレートが好き。
たまに下着や靴下を裏返しに履いてるところとか」
「あと、子供みたいに無邪気な笑顔をするところもかな」
私が下を向いて苦笑いすると、美緒が「ほらっ!その顔もですよ」と指差して笑った。
「あっ、これ持っててください。
私が出かけてるとき、この前みたいに車で待たせるといけないから」
美緒はそう言って、バッグから鍵を取り出しテーブルに置いた。
「それじゃ、ご飯の準備してきますね」
美緒はそう言ってキッチンに向かった。
私は鍵を手に取り、ソファーにもたれかかった。
それは美緒がいつも使っている部屋の鍵で、四枚の花びらをモチーフにした真鍮のチャームがぶら下がっていた。
私はそのチャームを眺めながら、花水木の花びらなんだろうなと思った。
そんなことを考えていると、
「はい、できましたよ。今日はハンバーグにしました」
美緒がお皿をテーブルに並べた。
「今日は、ケチャップベースのソースにしてますからね」
美緒は微笑んだ。
「おお、美味そう!」
私が夢中で食べているのを、美緒は満足げな笑顔で見ていた。
「ねぇ、直人さん。花水木のことなんですけど」
美緒は少し真面目な顔で言った。
「どうした?」
「この業界って、女の子が接客して、お客さんから料金をもらうじゃないですか。
その何割かがお店の売上になって成り立っている仕組みでしょ」
美緒は少し間を置き、続けた。
「それじゃ、お店にお金を何割か払っている女の子って、店側から見たらお客さんと同じだと思いませんか。
女の子がお客さんを接客する。
店は女の子を接客する気持ちで接する。」
「なるほどな。言われてみたら、その通りだよな」
「いろんな女の子がいるからケースバイケースですが、
お店側は基本的にそういう気持ちが大事だと思うんです。
細かい部分はちゃんと手帳に書いてますから」
「今度、弘も交えて三人で作戦会議をしないといけないな」
「はい、しましょう!」
美緒はニコッと笑った。
その夜、いつものように二人でベッドにいた。
私がふと目を覚ますと、カーテンの向こうは夜明けが近い雰囲気だった。
隣に目をやると、美緒がベッドの上で膝を抱えて座っていた。
その横顔は、どこか儚げで、悲しそうな目で遠くを見ているようだった。
そんな美緒の顔を、私は初めて見た気がした。
私は、美緒が何を想っているのか分かっていた。
それでも、声をかけることはせず、静かに目を閉じた。

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