264話「託した役目」

店の扉を開けると、男性スタッフがこちらへ歩み寄ってきた。

「いらっしゃいませ」

「村上です。藤本さんにお約束をいただいています」

スタッフは軽く頭を下げると、

「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」

と言い、私たちを奥の事務所へ案内した。

事務所へ入ると、デスクで事務作業をしていた藤本が顔を上げる。

「あっ、直人さん。お久しぶりですね」

愛嬌のある笑顔を浮かべながら立ち上がると、ソファーへ手を差し向けた。

「どうぞ、座ってください」

「ご無沙汰してます」

私はそう言って腰を下ろし、弘も軽く頭を下げる。

「失礼します」

藤本はコーヒーメーカーへ向かいながら振り返った。

「コーヒーでいいですか?」

「はい。ありがとうございます」

ほどなくして、湯気の立つコーヒーが私たちの前へ置かれる。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

私と弘は軽く頭を下げた。

私はカップへ手を伸ばしながら口を開く。

「白石から聞いていると思いますが……」

すると藤本は笑いながら耳へ手を添えた。

「昨日の夜、美緒ちゃんから電話をもらいました。話は聞いてますよ」

その仕草に思わず笑みがこぼれる。

「それで、次回からはこちらの石田弘が集金に伺います」

私が弘を見ると、弘は立ち上がり名刺を差し出した。

「石田弘です。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

藤本も立ち上がり名刺を受け取り、二人は軽く頭を下げ合った。

「あっ、そうそう」

藤本は思い出したように笑う。

「肝心なものを忘れてました」

そう言ってデスクの引き出しから封筒を取り出し、テーブルへ置いた。

私は封筒を受け取る。

「それじゃ確認しますね」

そう言って封筒を弘へ渡した。

弘はバッグから領収書と印鑑を取り出す。

封筒の中の現金を確認すると、手際よく領収書を書き始めた。

その様子を見届けた藤本は、コーヒーを一口飲んでから私へ目を向ける。

「直人さん。届出制になってから、もう一店舗増やされたんですよね?」

「ええ。一店舗は新規です。もう一つは届出制のタイミングで店名を変えてリニューアルしました」

「ホームページも拝見しましたよ」

藤本は感心したように頷く。

「デザインもセンスがありますし、女の子の写真もすごく綺麗ですね。それに在籍も多い。求人はホームページだけなんですか?」

私はコーヒーを一口飲んで答えた。

「今のところはホームページが中心です。あとは知り合いや女の子からの紹介ですね」

少し間を置いて続ける。

「最近はスカウトも少し始めました」

そう言って弘へ視線を向けると、藤本も納得したように頷いた。

「ああ、スカウトですか」

その時だった。

「はい、できました」

弘が顔を上げる。

「こちらが藤本さんの領収書です。こちらが小川さん。そして、こちらが女の子たちの分になります」

領収書を順番にテーブルへ並べる。

藤本は一枚ずつ確認し、満足そうに笑った。

「はい。確かに」

そして私へ向き直る。

「それなら、箱で働きたいって子がいたら紹介してくださいよ」

私は頷いた。

「もちろんです」

「実は直人さんたちの地域から来てる子もいるんですよ。やっぱり地元だと身バレを気にする子も多いですからね」

「なるほど」

私は納得しながら頷いた。

「藤本さんのお店のことも気に掛けておきます」

藤本は嬉しそうに笑う。

「よろしくお願いします」

私は腕時計へ目をやった。

「それじゃ藤本さん、そろそろ失礼します」

立ち上がると、弘も続いて頭を下げた。

「これからよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

藤本も笑顔で頭を下げる。

店を出ると、春の風が頬を優しく撫でた。

弘はバッグへ領収書の控えをしまいながら、小さく笑う。

「兄貴、初仕事無事終わりましたね」

「ああ。これからはお前の仕事だ」

「はい。頑張ります」

弘の頼もしい返事を聞きながら、私は駐車場へ向かって歩き出した。

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