店の扉を開けると、男性スタッフがこちらへ歩み寄ってきた。
「いらっしゃいませ」
「村上です。藤本さんにお約束をいただいています」
スタッフは軽く頭を下げると、
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
と言い、私たちを奥の事務所へ案内した。
事務所へ入ると、デスクで事務作業をしていた藤本が顔を上げる。
「あっ、直人さん。お久しぶりですね」
愛嬌のある笑顔を浮かべながら立ち上がると、ソファーへ手を差し向けた。
「どうぞ、座ってください」
「ご無沙汰してます」
私はそう言って腰を下ろし、弘も軽く頭を下げる。
「失礼します」
藤本はコーヒーメーカーへ向かいながら振り返った。
「コーヒーでいいですか?」
「はい。ありがとうございます」
ほどなくして、湯気の立つコーヒーが私たちの前へ置かれる。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
私と弘は軽く頭を下げた。
私はカップへ手を伸ばしながら口を開く。
「白石から聞いていると思いますが……」
すると藤本は笑いながら耳へ手を添えた。
「昨日の夜、美緒ちゃんから電話をもらいました。話は聞いてますよ」
その仕草に思わず笑みがこぼれる。
「それで、次回からはこちらの石田弘が集金に伺います」
私が弘を見ると、弘は立ち上がり名刺を差し出した。
「石田弘です。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
藤本も立ち上がり名刺を受け取り、二人は軽く頭を下げ合った。
「あっ、そうそう」
藤本は思い出したように笑う。
「肝心なものを忘れてました」
そう言ってデスクの引き出しから封筒を取り出し、テーブルへ置いた。
私は封筒を受け取る。
「それじゃ確認しますね」
そう言って封筒を弘へ渡した。
弘はバッグから領収書と印鑑を取り出す。
封筒の中の現金を確認すると、手際よく領収書を書き始めた。
その様子を見届けた藤本は、コーヒーを一口飲んでから私へ目を向ける。
「直人さん。届出制になってから、もう一店舗増やされたんですよね?」
「ええ。一店舗は新規です。もう一つは届出制のタイミングで店名を変えてリニューアルしました」
「ホームページも拝見しましたよ」
藤本は感心したように頷く。
「デザインもセンスがありますし、女の子の写真もすごく綺麗ですね。それに在籍も多い。求人はホームページだけなんですか?」
私はコーヒーを一口飲んで答えた。
「今のところはホームページが中心です。あとは知り合いや女の子からの紹介ですね」
少し間を置いて続ける。
「最近はスカウトも少し始めました」
そう言って弘へ視線を向けると、藤本も納得したように頷いた。
「ああ、スカウトですか」
その時だった。
「はい、できました」
弘が顔を上げる。
「こちらが藤本さんの領収書です。こちらが小川さん。そして、こちらが女の子たちの分になります」
領収書を順番にテーブルへ並べる。
藤本は一枚ずつ確認し、満足そうに笑った。
「はい。確かに」
そして私へ向き直る。
「それなら、箱で働きたいって子がいたら紹介してくださいよ」
私は頷いた。
「もちろんです」
「実は直人さんたちの地域から来てる子もいるんですよ。やっぱり地元だと身バレを気にする子も多いですからね」
「なるほど」
私は納得しながら頷いた。
「藤本さんのお店のことも気に掛けておきます」
藤本は嬉しそうに笑う。
「よろしくお願いします」
私は腕時計へ目をやった。
「それじゃ藤本さん、そろそろ失礼します」
立ち上がると、弘も続いて頭を下げた。
「これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
藤本も笑顔で頭を下げる。
店を出ると、春の風が頬を優しく撫でた。
弘はバッグへ領収書の控えをしまいながら、小さく笑う。
「兄貴、初仕事無事終わりましたね」
「ああ。これからはお前の仕事だ」
「はい。頑張ります」
弘の頼もしい返事を聞きながら、私は駐車場へ向かって歩き出した。

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