261話「新たな出会い」

美緒の優しい声で目を覚ます。

「直人さん。そろそろ起きようか」

私はゆっくりと体を起こした。

「今何時だ?」

「もう十時過ぎだよ。弘さん、昼前に迎えに来るんでしょ」

そう言いながら、美緒は指先で髪を整えている。

リビングへ行くと、淹れたてのコーヒーの香りが部屋いっぱいに広がっていた。

私はソファーへ腰を下ろし、今日一日の予定を頭の中で整理する。

茉莉花で新しいスタッフと会うこと。

そのあと弘と一緒に、藤本の店「エンジェルタッチ」へ集金に向かうこと。

そんなことを考えていると、美緒が湯気の立つカップを差し出した。

「はい、コーヒー」

「ありがとう」

一口飲むと、温かな香りが身体に染み渡る。

美緒は私の隣へ座り、穏やかな口調で言った。

「藤本さんには、今日から集金は私じゃなくて別の者が行くって伝えてあるから」

私は思わず笑う。

「さすが美緒だな。今ちょうどその話をしようと思ってたんだよ」

美緒も小さく笑った。

「ちゃんと昨日の夜に連絡しておいたよ」

二人で今日の予定を確認していると、携帯が鳴った。

弘からのメールだった。

『お疲れです。今から花水木出ます』

私は立ち上がり、出掛ける支度を始める。

玄関まで見送りに来た美緒が微笑んだ。

「行ってらっしゃい」

「ああ、行ってくる」

マンションを出ると、弘が車の横に立って待っていた。

「兄貴、おはようございます!」

「おう、おはよう」

私は助手席へ乗り込み、車はゆっくりと走り出す。

しばらく走ると、弘が口を開いた。

「今から会う新しいスタッフって、どんな人なんすかね?」

「詳しくは分からないが、若い女の子らしい。前に綾さんと同じ店でスタッフをやってたそうだ」

「経験者なら即戦力っすね」

「そうだな」

そのとき携帯にメールが届いた。

画面を見ると、早苗からだった。

『おはよう。今どこかな?』

私はメールを読み終えると、そのまま早苗へ電話を掛けた。

「もしもし。もうこっちに向かってるんでしょ?」

「ああ、弘と茉莉花へ向かってる」

早苗は少し申し訳なさそうな声で話し始めた。

「今日ね、一時と一時半に女の子の予約が入ったの。それで事務所にも何人か出勤してるから、今日は別の場所で会おうと思うんだけど」

「そうなんだ」

「うん。だからインターチェンジの近くにあるファミレスへ来て」

「分かった。それじゃ、そっちへ行くよ」

電話を切ると、私は弘へ予定変更を伝えた。

「予定変更だ。茉莉花じゃなくてファミレスだ」

「了解っす」

車は早苗の指定したファミレスへ向かった。

駐車場へ入ると、早苗と綾さんの車がすでに停まっている。

私と弘が店内へ入ると、昼時ということもあり、多くの客で賑わっていた。

「あっ、兄貴。早苗姐さんたち、あそこっす」

弘が店の奥を指差す。

視線の先では、早苗たちが一番奥の広いテーブル席からこちらへ手を振っていた。

私たちが席へ近づくと、早苗と綾さんの隣に座っていた一人の若い女性が立ち上がる。

少し緊張した表情を浮かべながら、私たちへ深く頭を下げた。

早苗が笑顔で紹介する。

「直人さん、弘君。この子が今日紹介したかった新しいスタッフだよ」

女性はもう一度頭を下げた。

「はじめまして。西園真希といいます。よろしくお願いします」

私も軽く頭を下げる。

「こちらこそよろしく」

顔を上げた真希は、まだ少し緊張した表情を浮かべていた。

それでも、その笑顔には初々しさの中に、どこか芯の強さが感じられた。

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