256話「仲間という力」

私は腕時計へ目を向けた。

そろそろ綾さんたちが戻ってくる頃だ。

早苗も壁に掛かった時計を見上げる。

「もうすぐ戻ってくるね」

「ああ。それじゃ、先に二階へ行くか」

私が立ち上がると、早苗はパソコンを閉じながら微笑んだ。

「パソコン持って先に行ってて。綾さんと少し話して、コーヒーも淹れ直してから行くね」

「分かった」

私はバッグとパソコンを持ち、二階へ上がる。

部屋へ入ると荷物をテーブルへ置き、そのままベッドへ横になった。

静かな天井を見上げながら、今日一日の出来事を思い返す。

黒木ママと交わしたエージェントの話。

そして、早苗が話してくれたホームページや掲載サイトの構想。

どちらも未来へ向かうための大切な一歩だった。

ぼんやりと考えているうちに、一階から賑やかな声が聞こえてきた。

「ただいまー!」

綾さんや女の子たちの明るい声に続き、早苗の笑い声が聞こえる。

その声を遠くに聞きながら、私はいつの間にか眠りに落ちていた。

ふと、人の気配を感じて目を開ける。

隣を見ると、早苗がベッドに腰掛け、私の顔を覗き込むように見つめていた。

「ああ……寝てしまってたな」

私が苦笑すると、早苗は少し心配そうな表情を浮かべる。

「あなた、疲れてるんじゃない?」

「いや、大丈夫だよ」

私はゆっくりと体を起こし、ソファーへ腰を下ろした。

早苗は淹れたてのコーヒーとチーズケーキをテーブルへ運び、私の前に置く。

「ありがとう」

私はコーヒーを一口飲み、ふっと息をついた。

「リトとエージェントの仕事を始めようと思ってさ。色々調べたり、準備したりしてるんだ」

「今日の昼も黒木ママと会ってきたんだ。指輪を渡して、一緒にランチをしながらエージェントの話をしてきた」

私は黒木ママとのやり取りや、エージェントという仕事の仕組み、これから準備していくことを順を追って話した。

早苗は途中で口を挟むことなく、静かに耳を傾けている。

話し終えると、早苗は嬉しそうに笑った。

「すごいね。かなり具体的になってきたね。黒木ママも応援してくれるなら鬼に金棒だよ」

私はチーズケーキにフォークを入れ、小さく笑った。

「いや、まだまだだよ。準備しなきゃいけないことも、調べることも山ほどあるからな」

そう言ってチーズケーキを口へ運ぶ。

「でも、私が手伝えることがあれば何でも言ってね」

「うん。ありがとう」

私はコーヒーカップをテーブルへ置き、早苗へ微笑んだ。

すると早苗は何かを思い出したように顔を上げた。

「あっ、そうそう。さっき綾さんに新しいスタッフのこと聞いたら、今度ここに連れてきてくれるって」

その嬉しそうな笑顔を見て、私も自然と頬が緩んだ。

少しずつ仲間が増え、茉莉花もまた新しい一歩を踏み出そうとしている。

その歩みは決して速くはない。

それでも、一歩ずつ積み重ねた先にある未来を、私は信じていた。

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