248話「束の間のひととき」

「話があるヨ。」

リトの言葉を聞いた私は、小さく頷いた。

ちょうどエレベーターが上がってくるのを待ちながら、私は弘へ声を掛ける。

「弘、腹減ってないか?」

弘は笑いながら自分の腹をさすった。

「一仕事終わったから、お腹ぺこぺこっす!」

その様子に私は笑う。

「それじゃ、カレンデリアに行くか」

美緒も嬉しそうに頷いた。

「いいね。」

その時、エレベーターの扉が静かに開く。

四人で乗り込むと、弘が不思議そうな顔で私たちを見た。

「カレンデリアって何すか?」

美緒は微笑みながら答える。

「すごく美味しいフィリピン料理のお店です。それにマンゴージュースが最高なんですよ」

弘の目が輝いた。

「フィリピン料理とか食ったことないっす。マンゴージュースも気になるなぁ」

その言葉にリトが嬉しそうに笑った。

「きっと気に入るヨ」

マンションを出ると四人で弘の車へ乗り込み、カレンデリアへ向かった。

私はリトと後部座席へ座る。

助手席では美緒が今日の販売の様子を振り返りながら、弘と楽しそうに話していた。

「最初は緊張してたのに、途中からすっかり慣れてましたね」

「いやぁ、夢中だったよ」

二人の笑い声を聞きながら、私はリトへ視線を向ける。

「フィリピンで準備しなくちゃいけないこと、分かったか?」

リトは頷いた。

「うん。だいたい分かったヨ」

そして今度は私へ聞き返す。

「ナオトは?」

「俺も調べたよ。あれからシゲさんに相談しにラ・カシーナへ行ってきた」

リトは少し驚いたように目を見開き、すぐに笑顔になった。

「あっ! シゲさんに会いに行ったんだ!」

そんな話をしているうちに、車はカレンデリアへ到着した。

店内へ入ると、食欲をそそる香辛料の香りが漂っている。

店は多くの客で賑わい、店員たちが忙しそうに料理を運んでいた。

私たちは奥のテーブルへ腰を下ろす。

弘は辺りを見回しながら鼻をくんくんと動かした。

「何かスパイスの香りっていうか……初めての匂いっす」

リトは笑いながらメニューを開く。

「この前と同じ料理でいい?」

私たちは頷く。

私が一言付け加えた。

「マンゴージュースも」

リトは笑って親指を立てた。

「分かってるヨ!」

料理が運ばれてくるまでの間、四人は今日の販売のことや売上の話で盛り上がった。

やがてテーブルいっぱいに料理が並ぶ。

弘は一口食べるなり、目を丸くした。

「うまい! めちゃくちゃ美味いっす!」

夢中になって料理を頬張る弘を見て、私たちは思わず笑ってしまう。

穏やかな時間が流れていた、その時だった。

「あっ、ミオ!」

店の奥から明るい声が聞こえた。

美緒が振り返る。

「あっ!」

そこにはクラブ黒木のタレントたちが楽しそうに食事をしていた。

美緒は席を立ち、笑顔でそのテーブルへ向かう。

楽しそうに話したあと、こちらを向いて手を振った。

「弘さん!」

弘は口いっぱいに料理を頬張ったまま目を丸くする。

「えっ、俺っすか?」

慌てて口の中のものを飲み込み、美緒のいるテーブルへ歩いて行く。

どうやら弘を紹介しているようだった。

しばらくすると、美緒は戻ってきて自分と弘のマンゴージュースを手に取った。

私とリトの顔を見比べると、何かを察したように小さく微笑んだ。

「ちょっと向こうで話してくるね」

私はその気遣いに気付き、小さく頷いた。

「うん。」

美緒はタレントたちのテーブルへ戻っていく。

私はリトへ向き直った。

「それで、フィリピンサイドはまず何から準備すればいい?」

リトは静かに頷き、ゆっくりと話し始めた。

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