私はリトへ向き直った。
「それで、フィリピンサイドはまず何から準備すればいい?」
リトは静かに頷くと、マンゴージュースを一口飲み、ゆっくりと話し始めた。
「この前ナオトと話した後、奥さんや家族、それからプロモーターで働いている知り合いに電話したヨ」
私は黙って続きを待つ。
「奥さんや家族には前からナオトのことを話してるからネ。ナオトとエージェントの仕事をするのは大賛成だったヨ」
リトは嬉しそうに笑った。
その表情を見て、私も自然と笑みがこぼれる。
しかし、再びマンゴージュースを口にしたリトは、少し表情を引き締めた。
「でもネ……」
私はリトの顔を見る。
「プロモーターで働いている知り合いが、エージェントの仕事はいいと思うけど、気をつけたほうがいいって言ってたヨ」
「気をつけるって?」
リトは静かに頷いた。
「マニラとかでタレントとして日本へ来たことがある人は、ほとんどどこかのプロモーターに入ってるヨ。誰でも声を掛けたり、スカウトしたりするとトラブルになるって」
私は腕を組みながら頷いた。
なるほど……。
日本の風俗業界とよく似ている。
「それじゃ、どこかのプロモーターに所属しているタレントだったら、こっち関係が出てくるかもってことだよな」
私は頬に指を当て、傷跡をなぞるような仕草をした。
リトはその意味を理解したように頷く。
「うん。フィリピンのマフィアは日本のヤクザとは少し違うヨ。日本のヤクザはルールがあるネ。でもフィリピンのマフィアはもっと危ないヨ」
私は少し考えた。
「それじゃ、マニラみたいな都会じゃなくて、田舎で探せばいいんじゃないか?」
「そうなんだけど……」
リトは少し困ったように笑う。
「あんまりマニラから離れると、学校とかレッスンに通えないヨ」
私はマンゴージュースを一口飲みながら考え込んだ。
しばらく沈黙が流れる。
リトは黙って私の言葉を待っていた。
「それじゃ、アパートでも借りてあげたらどうだ?」
「うん……でもアパートも一つだったらいいけど、何人もとなるとお金がかかるヨ。それに私の家から遠いと、面倒を見るのも大変だネ」
私は腕を組み直した。
ふと、一つの考えが頭に浮かぶ。
「そういえば、リトの家ってアパートなのか?」
「ううん。そんなに大きくないけど、一軒家だヨ」
私は思わず笑った。
「それなら話は早い。」
リトが首を傾げる。
「家を増築して、そこに女の子たちを住まわせたらいいじゃないか」
「えっ!」
リトの表情がぱっと明るくなった。
「それ、いいネ!」
しかし次の瞬間、少し申し訳なさそうな顔になる。
「でも……お金がかかるヨ」
私は笑いながらリトの腕を軽く叩いた。
「お金のことは心配しなくていいって、前にも言っただろ」
リトは私を真っ直ぐ見つめた。
その瞳には安心したような光が宿っていた。
「ありがとう、ナオト。」
私は照れくさそうに笑い、軽く頷いた。
「これからは二人で考えて、一つずつ形にしていこう。」

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