249話「形にするために」

私はリトへ向き直った。

「それで、フィリピンサイドはまず何から準備すればいい?」

リトは静かに頷くと、マンゴージュースを一口飲み、ゆっくりと話し始めた。

「この前ナオトと話した後、奥さんや家族、それからプロモーターで働いている知り合いに電話したヨ」

私は黙って続きを待つ。

「奥さんや家族には前からナオトのことを話してるからネ。ナオトとエージェントの仕事をするのは大賛成だったヨ」

リトは嬉しそうに笑った。

その表情を見て、私も自然と笑みがこぼれる。

しかし、再びマンゴージュースを口にしたリトは、少し表情を引き締めた。

「でもネ……」

私はリトの顔を見る。

「プロモーターで働いている知り合いが、エージェントの仕事はいいと思うけど、気をつけたほうがいいって言ってたヨ」

「気をつけるって?」

リトは静かに頷いた。

「マニラとかでタレントとして日本へ来たことがある人は、ほとんどどこかのプロモーターに入ってるヨ。誰でも声を掛けたり、スカウトしたりするとトラブルになるって」

私は腕を組みながら頷いた。

なるほど……。

日本の風俗業界とよく似ている。

「それじゃ、どこかのプロモーターに所属しているタレントだったら、こっち関係が出てくるかもってことだよな」

私は頬に指を当て、傷跡をなぞるような仕草をした。

リトはその意味を理解したように頷く。

「うん。フィリピンのマフィアは日本のヤクザとは少し違うヨ。日本のヤクザはルールがあるネ。でもフィリピンのマフィアはもっと危ないヨ」

私は少し考えた。

「それじゃ、マニラみたいな都会じゃなくて、田舎で探せばいいんじゃないか?」

「そうなんだけど……」

リトは少し困ったように笑う。

「あんまりマニラから離れると、学校とかレッスンに通えないヨ」

私はマンゴージュースを一口飲みながら考え込んだ。

しばらく沈黙が流れる。

リトは黙って私の言葉を待っていた。

「それじゃ、アパートでも借りてあげたらどうだ?」

「うん……でもアパートも一つだったらいいけど、何人もとなるとお金がかかるヨ。それに私の家から遠いと、面倒を見るのも大変だネ」

私は腕を組み直した。

ふと、一つの考えが頭に浮かぶ。

「そういえば、リトの家ってアパートなのか?」

「ううん。そんなに大きくないけど、一軒家だヨ」

私は思わず笑った。

「それなら話は早い。」

リトが首を傾げる。

「家を増築して、そこに女の子たちを住まわせたらいいじゃないか」

「えっ!」

リトの表情がぱっと明るくなった。

「それ、いいネ!」

しかし次の瞬間、少し申し訳なさそうな顔になる。

「でも……お金がかかるヨ」

私は笑いながらリトの腕を軽く叩いた。

「お金のことは心配しなくていいって、前にも言っただろ」

リトは私を真っ直ぐ見つめた。

その瞳には安心したような光が宿っていた。

「ありがとう、ナオト。」

私は照れくさそうに笑い、軽く頷いた。

「これからは二人で考えて、一つずつ形にしていこう。」

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