233話「ファミリー」

しばらくの間、車内には静かな時間が流れていた。

私は何も言わず、リトを見つめる。

リトも私を見つめ返していた。

その瞳は潤んでいたが、不思議と迷いは感じられなかった。

やがてリトは、ゆっくりと右手を差し出した。

何も言わない。

ただ、その手には想いが込められているようだった。

私は小さく頷き、自分の手を差し出す。

リトは私の手を握ると、もう片方の手を重ね、両手で包み込んだ。

その手は思っていたよりも力強かった。

まるで、自分の覚悟を伝えるように。

しばらくそのまま、お互い何も話さなかった。

車の外では、ロータリーを行き交う車の音だけが静かに聞こえている。

やがてリトが口を開いた。

「……ナオト」

小さな声だった。

けれど、その声には確かな決意が宿っていた。

「ありがとう」

私は黙って頷く。

リトは少し照れくさそうに笑った。

「ナオトは、もう友達じゃないヨ」

私は首を傾げる。

リトは私の目をまっすぐ見つめた。

「ファミリーと同じだヨ」

胸の奥が熱くなった。

私は何も言わず、握っている手に少しだけ力を込める。

リトも応えるように握り返してきた。

自然と二人で笑みがこぼれた。

少し照れくさい。

でも、その笑顔には言葉以上のものがあった。

しばらくしてリトは前を向き、小さく笑う。

「エージェントの仕事なんて、考えたこともなかったヨ」

「そうだろうな」

私も笑う。

「でも……」

リトの表情が少しだけ真剣になる。

「本当にできるかナ?」

その言葉に、私はゆっくり頷いた。

「最初から大きなことをやる必要はないさ」

リトは黙って聞いている。

「少しずつ準備すればいい。知識も、人との繋がりも、一つずつ増やしていけばいいんだ」

私は穏やかな口調で続けた。

「焦る必要なんてない。俺も一緒にやるんだから」

リトは私を見つめた。

さっきまで浮かんでいた不安が、少しずつ消えていくのが表情から伝わってくる。

そして、ゆっくりと頷いた。

「ウン」

その笑顔は、さっきよりもずっと明るかった。

「ナオトと一緒なら……きっと頑張れるヨ」

その言葉を聞いた瞬間、私は心から安心した。

「ああ。一緒に頑張ろう」

私はそう言って笑った。

リトも大きく頷く。

そして私たちはもう一度、固く手を握り合った。

それは、新しい仕事の約束ではない。

互いの未来を支え合うと決めた、二人だけの約束だった。

夜のロータリーを走る車の灯りが、静かに流れていく。

その光景を眺めながら、私はそっと思った。

私たちの未来もまた、ゆっくりと動き始めていた。

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