「初めは何の知識もないからな」
シゲさんは静かに話し始めた。
「悪いエージェントやプロモーターに引っかかって、食い物みたいにされるタレントもいるんだよ」
「……」
「法外な金を取られても逃げられない。契約を盾にされて、ずっと搾取され続ける子もいる」
シゲさんは寂しそうに笑った。
「そんな話、今までたくさん見てきたよ」
私は黙って続きを待った。
「でもな、俺じゃどうしようもできない場合がほとんどなんだ」
そう言ってコーヒーを一口飲む。
「助けてやりたいと思っても、もう他のプロモーターやエージェントの所にいる子には簡単に手を出せないしな」
私は小さく頷いた。
「だから、せめて自分が紹介する子たちは安心して任せられる所に送り出したいって、いつも思ってたんだ」
シゲさんはカップを置いた。
「そんな時に黒木ママと出会ったんだよ」
「黒木ママと?」
「あぁ」
シゲさんは笑った。
「最初は紹介するつもりなんてなかったんだ。ただ、どんな店なのか気になってな」
そして店内を見渡す。
「それで実際に店を見て、働いてるタレントたちを見て、ママとも話をした」
「それで?」
「この店は間違いないなって思ったよ」
シゲさんは迷いなく言った。
「黒木ママも間違いない」
「そうだったんですか」
「あぁ。仕事には厳しいけど、タレントたちのことを本当に考えてる」
そう言って笑う。
「だから俺も安心して紹介できるんだ」
その時だった。
「ナオト!」
販売を終えた美緒とリトがこちらへやって来る。
「あっ!」
リトはシゲさんを見るなり目を丸くした。
「ラ・カシーナの!」
シゲさんは笑った。
「おぉ、リトじゃないか」
「久しぶりですネ!」
「元気そうだな」
「ハイ!」
リトは嬉しそうに笑った。
「シゲさんも元気そうですネ!」
「おかげさまでな」
二人の様子を見ていた美緒が不思議そうに首を傾げる。
「知り合いなんですか?」
「ウン」
リトは笑顔で頷いた。
「ラ・カシーナにはよく遊びに行くんだ。バンドの人たちとも仲良くしてもらってるしネ」
「そうだったんだ」
美緒も笑った。
「世間って狭いね」
するとシゲさんは楽しそうに笑った。
「この街のフィリピン人は、みんな繋がってるからな」
その言葉に、私たちの周りには自然と笑い声が広がっていった。

コメント