225話「シゲさん」

ママの声に振り向いた男性がこちらへ歩いてきた。

小柄だががっちりとした体つきで、日に焼けた肌に口髭を蓄えている。

優しそうな笑顔が印象的な人だった。

「茂、この子が直人くん。フィリピンタレントのことに興味あるんだって。こういう話は私より詳しいでしょ?」

ママがそう言うと、男は笑った。

「はいはい、分かりました」

そして私を見る。

「中島茂です」

そう言ってニコッと笑いながら手を差し出した。

私は慌てて立ち上がる。

「はじめまして。村上直人です」

そう言って名刺を差し出すと、中島さんも名刺を受け取りながら握手を交わした。

「よろしく」

「よろしくお願いします」

すると中島さんは笑った。

「そんなに固くならなくていいよ。タレントたちはみんなシゲとかシゲさんって呼んでるから、シゲさんでいいよ」

「分かりました。シゲさん」

「うん。その方がしっくりくるな。直人君だっけ。俺も直人って呼ぶよ」

そう言うと、シゲさんはフレンドリーに私の肩を軽く叩いた。

「コーヒー飲む?」

「はい」

シゲさんは慣れた様子でカウンターの中に入ると、豆を挽き始めた。

その間にママがアクセサリーを一つ手に取る。

「あら、これ素敵ね」

そう言って指輪を指にはめてみせた。

「これもらうわ。サイズ直しお願いね」

「ありがとうございます」

「あとで代金払うから」

ママは笑うと、再びタレントたちの輪の中へ戻っていった。

その頃には美緒とリトの周りにも人だかりができている。

「これかわいい!」

「ミオ、こっち見せて!」

「リト、どっち似合う?」

楽しそうな声が店の中に響いていた。

やがてシゲさんがコーヒーを二つ持って戻ってくる。

「はい」

「ありがとうございます」

シゲさんは私の隣に腰を下ろした。

「ママが言ってたけど、何か聞きたいことあるんだって?」

私はコーヒーを一口飲む。

「前から気になってたんです。同じフィリピンタレントでも、店によって待遇が全然違いますよね」

「あぁ、その話か」

シゲさんは小さく笑った。

「長い話になるよ?」

「大丈夫です」

「そう?」

そう言ってシゲさんもコーヒーを口にする。

「俺も最初は何も知らなかったんだよ」

「そうなんですか?」

「うん。今はプロモーターやりながら近くでラ・カシーナって店をやってるけどね。フィリピンじゃ女房も仕事を手伝ってくれてるし、随分助けられてるよ」

私は黙って続きを待った。

「でもな」

シゲさんは少し遠くを見るように目を細めた。

「同じフィリピンタレントでも、店によって全然違うんだ」

「……」

「天国みたいな店もあれば、地獄みたいな店もある」

そう言うと、シゲさんはコーヒーカップを静かに置いた。

「さて、どこから話そうかな」

シゲさんは苦笑いを浮かべた。

「まずは、タレントが日本へ来るところから話した方が早いかな」

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