ママの声に振り向いた男性がこちらへ歩いてきた。
小柄だががっちりとした体つきで、日に焼けた肌に口髭を蓄えている。
優しそうな笑顔が印象的な人だった。
「茂、この子が直人くん。フィリピンタレントのことに興味あるんだって。こういう話は私より詳しいでしょ?」
ママがそう言うと、男は笑った。
「はいはい、分かりました」
そして私を見る。
「中島茂です」
そう言ってニコッと笑いながら手を差し出した。
私は慌てて立ち上がる。
「はじめまして。村上直人です」
そう言って名刺を差し出すと、中島さんも名刺を受け取りながら握手を交わした。
「よろしく」
「よろしくお願いします」
すると中島さんは笑った。
「そんなに固くならなくていいよ。タレントたちはみんなシゲとかシゲさんって呼んでるから、シゲさんでいいよ」
「分かりました。シゲさん」
「うん。その方がしっくりくるな。直人君だっけ。俺も直人って呼ぶよ」
そう言うと、シゲさんはフレンドリーに私の肩を軽く叩いた。
「コーヒー飲む?」
「はい」
シゲさんは慣れた様子でカウンターの中に入ると、豆を挽き始めた。
その間にママがアクセサリーを一つ手に取る。
「あら、これ素敵ね」
そう言って指輪を指にはめてみせた。
「これもらうわ。サイズ直しお願いね」
「ありがとうございます」
「あとで代金払うから」
ママは笑うと、再びタレントたちの輪の中へ戻っていった。
その頃には美緒とリトの周りにも人だかりができている。
「これかわいい!」
「ミオ、こっち見せて!」
「リト、どっち似合う?」
楽しそうな声が店の中に響いていた。
やがてシゲさんがコーヒーを二つ持って戻ってくる。
「はい」
「ありがとうございます」
シゲさんは私の隣に腰を下ろした。
「ママが言ってたけど、何か聞きたいことあるんだって?」
私はコーヒーを一口飲む。
「前から気になってたんです。同じフィリピンタレントでも、店によって待遇が全然違いますよね」
「あぁ、その話か」
シゲさんは小さく笑った。
「長い話になるよ?」
「大丈夫です」
「そう?」
そう言ってシゲさんもコーヒーを口にする。
「俺も最初は何も知らなかったんだよ」
「そうなんですか?」
「うん。今はプロモーターやりながら近くでラ・カシーナって店をやってるけどね。フィリピンじゃ女房も仕事を手伝ってくれてるし、随分助けられてるよ」
私は黙って続きを待った。
「でもな」
シゲさんは少し遠くを見るように目を細めた。
「同じフィリピンタレントでも、店によって全然違うんだ」
「……」
「天国みたいな店もあれば、地獄みたいな店もある」
そう言うと、シゲさんはコーヒーカップを静かに置いた。
「さて、どこから話そうかな」
シゲさんは苦笑いを浮かべた。
「まずは、タレントが日本へ来るところから話した方が早いかな」

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