10話「ありがたい」

拘置所に来て初日は、ここまで言われるのかと思うほど、罵声と怒声の嵐だった。

移監されたのは真冬だった。

冷暖房設備のない拘置所は、外にいるのと変わらないくらい寒かった。

部屋に入れられて五分ほどすると、刑務官が針と糸を持ってきた。

敷布団にシーツを縫い付けるよう指示される。

裁縫なんて、小学生の家庭科以来やった覚えがない。

手は悴み、思うように動かない。何度か指に針を刺し、痛みとともに、わずかに血が滲んだ。

作業が終わり、針と糸を戻す際、指から血が出ているのを見られ、また怒鳴られた。

しばらく、寒さに耐えながら黙って座っていた。

すると、何と表現すればいいのか、お坊さんがお経をあげる時のような、低く、叫ぶような、唸るような声が響いてきた。

意味が分からないまま座っていると、刑務官と、雑役と呼ばれる数人の懲役囚が、房の前に立っていた。

「貴様!何を座っとるか!早く、やかんを持って来い!この馬鹿が!」

何が正解なのか分からないまま、ただ怒鳴られ、命じられる。

その後も、怒鳴り声が途切れることはなかった。

何度か、唸るような声が響いたあと、昼食が運ばれてきた。

驚いた。

温かいチャンポンと、にんにくの効いた焼き飯だった。

芯まで冷え切っていた身体に、それが染み渡った。

留置場では、いつも冷たい食事だった。

だから、ほんのりとでも温かい食事を口にしたのは、数ヶ月ぶりだった。

外の社会で生活していた頃なら、何でもないことだったはずだ。

それでも、この時は、本当にありがたいと感じていた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました