119話「決めたあとで」

物件の戸建を出たあと、

まだ少し現実感のないまま、私たちは三人で食事に行くことになった。

私は車に乗る前に、もう一度外から建物を眺めた。

そして不動産屋に連絡を入れ、契約することを伝えた。

車に乗り込むと、二人はすでに食事に行く店を決めていた。

その店は、大きな古民家を飲食店としてリノベーションした、オシャレなチャイニーズレストランだった。

店内は落ち着いた雰囲気で賑わっていて、客のほとんどは女性だった。

個室に案内され、ジャスミン茶が運ばれてきた。

「雑誌に見たとおり、いいお店だね」

早苗が言うと、

「うん、早苗が選ぶお店って昔から当たりだったよね。さすが早苗、男とお店を選ぶセンスはいいよね」

里奈ちゃんはケラケラと笑った。

注文を済ませ、店員が個室のドアを閉めると、早苗がこちらを見た。

「さっきの物件に決めたんでしょ?」

「ああ。不動産屋に連絡して、契約するって言った」

「あの場所、事務所にいいよね。車も何台か停められるし、リビングもかなり広いもんね。

二階に部屋もあるし…」

早苗は顎に手を当て、考えるような顔をしていた。

「二階の奥の部屋は、私が使っていいよね?」

里奈ちゃんは私と早苗を交互に見ながら言った。

「私はいいけど…」

そう言って、早苗は私を見た。

「俺は全然いいよ。早苗も、里奈ちゃんがいた方が何かと心強いだろ」

「決まりー!

早苗も事務所に住めばいいじゃん。二階の広い部屋だったら、直人くんと二人でも十分の広さだよ。ダブルベッドも置けるしね!」

里奈ちゃんは、またケラケラと笑った。

「お待たせしました」

ドアが開き、料理が運ばれてきた。

三人で食事をしながら、今後の準備や仕事の流れについて話した。

里奈ちゃんは、契約が終わって鍵を受け取ったら、すぐに事務所へ引っ越し、細々とした準備を進めることになった。

話していると、里奈ちゃんが私の顔をじっと見て言った。

「直人くん、なんか目つきが変わったね。

顔は前と同じで優しいんだけど、目だけが別人みたいに鋭くなってる」

「そうかな。自分では何も変わってないと思うけど」

そう言って、私は早苗を見た。

早苗は何も言わず、ただ少しだけ微笑んだ。

「ねぇ、直人くん。早苗と旅行に行ってきていいかな?

さっきマンションで話してたんだよ。茉莉花が始まったら、早苗もあまり休めなくなるから、その前に行こうって」

里奈ちゃんは早苗を見てから続けた。

「早苗は行きたいみたいだけど、直人くんのことが気になるみたいでさ」

私は少しだけ早苗の方に向き直った。

「俺のことは気にしなくていいよ。

里奈ちゃんの言うように、しばらくは休めなくなるかもしれないしな」

「それじゃ…あなたがそう言うなら、行ってこようかな」

早苗はそう言って、ニッコリと笑った。

「やったあ!旅行の計画はお任せあれ!

直人くん、お土産いっぱい買ってくるね」

里奈ちゃんは得意げに言い、胸を叩いた。

私はジャスミン茶を飲みながら、はしゃぐ二人を見ていた。

旅行かぁ…。

ふわりと、美緒のことが頭に浮かんだ。

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