逮捕された時、驚くほど自分は落ち着いていた。
「ああ、やはり来るべき時が来たか」
そんな感覚だったと思う。
ただ、初めてかけられた手錠の感触と重さは、今でもはっきりと覚えている。
逮捕されたのは夜中の三時頃だった。
留置場に入れられた時、部屋は真っ暗で独居だった。
漆黒の闇の中、物音ひとつしない空間に一人きり。
そこでようやく冷静になり、この先どうなるんだろう、自分の犯した罪にはどれくらいの裁きが下るのだろう。
一緒に罪を犯した仲間たちはどうなったのだろう。
そんな考えが次々と浮かび不安と怖さに押しつぶされそうになった。
布団にくるまって目を閉じても、一睡も出来ないまま朝を迎えた。
朝の点呼のあと食事を配られたが、まったく食欲はなかった。
後になって分かったことだか、夜中に入れられていた部屋は少年房だったらしく、だから誰にも会うことがなかったのだと知った。
朝の運動の時間をきっかけに、一般房へと移される。
六畳もないような部屋で、2、3人で生活していく空間。
無機質なつくりと、男の匂いというか、今まで経験したことのない独特な空気が漂っていた。
そこには、外の世界とはまったく違うルールがあり、新入りは夜になると質問攻めにあい、事件のことを根掘り葉掘り話さなければならなかった。
流れがまったくわからず、考えれば考えるほど頭の中がショートしそうだった。
ただ、この時はまだ知らなかった。
ここから先、自分が今まで触れることのなかった世の中の裏側を知ることになるということを。


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