3話「自由と呼んでいた夜」

夜の世界で働くようになってから昼とは違う空気の中にいる感覚があった。

開放感があって、その頃の自分には、それが「自由」に見えていた。

ラウンジではチーフとして働いていた。店のママは経営者で、仕事上の関係だったはずが、気づけば男女の関係になっていた。

その店には、暴力団関係者と呼ばれる人達が客としてよく来ていた。

挨拶をして、少し会話をする。あくまで仕事の延長で深く関わっている意識はなかった。

そんな中、昔付き合っていた女性が、突然客として店に来た。

自分がここで働いていると噂で聞いたから、という理由だった。

彼女は近々、ラウンジをオープンする予定だと言っていた。

そこからまた関係を持つようになり、仕事が終わってから頻繁に会うようになった。

彼女の従兄弟は女性で、その彼氏が暴力団組員だった。

四人で食事に行くような関係になり、

少しずつ付き合いの輪が広がっていった。

夜の世界は、自分にとって居心地が良かった。

過去も肩書きも、細かいことを問われない。

何をしてきた人間かより「今そこにいるかどうか」で人が判断される場所だった。

昼の世界で感じていた息苦しさや居場所のなさを、あまり意識しなくて済んだ。考えなくても流れに乗れる。その感覚が自分には楽だった。

やがて、彼女の従兄弟が住むマンションに遊びに行くようになった。

そこには、複数の暴力団組員が当たり前のように出入りしていた。

部屋の中では、薬物の使用や取引、犯罪の話が、特別な事でもないように普通に交わされていた。

正直、衝撃はあった。

テレビの中の話だと思っていた世界が、生活の延長として目の前にあったからだ。

それでも当時の自分は、「一線は越えていない」と思っていた。

犯罪者でもないし、暴力団組員でもない。

だから自分は、まだ自由な側にいる人間だと思い込んでいた。

彼らから何かを強制される事はなかった。脅されることもなかった。

むしろ、同じ場所にいる人間として自然に扱われていたと思う。

だからこそ、自分は安心していた。

危ない世界だと分かっていながら、「自分は違う」という理由をいくつも用意していた。

その居心地の良さが、境界線を少しずつ見えなくしていった。

外にいるつもりで、実際にはもう、境界の上に立っていた。

踏み込んだわけじゃない。

ただ戻る理由を、見失い始めていただけだった。

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