マンションに帰りドアを開けると、カレーのいい匂いがした。
「おかえりー」
早苗がエプロン姿でキッチンから顔を出す。
早苗のカレーは市販のルーを使わない本格的なものだ。
「今日はカレーだよ。もうできるからね」
料理している早苗を眺めながら、また恵美さんの件を考えていた。
まともな仕事をしているとは思えない。
何か危険な匂いがする。
でも確実な情報を持っている。
チャンスを逃したくないが、今の自分は執行猶予の身だ。
「ねぇ!聞いてる?」
早苗が腕組みして私を見ている。
「何かあったの?」心配そうな顔になる。
「いや、何もないよ。今からの予定を考えていただけ」
と誤魔化した。
「そっか、カレーできたから食べよう!スパイスと愛情たっぷり入ってるから」
早苗はウインクした。
カレーを食べながら、今夜また二人目の人と会う約束があると嘘をついた。
迎えには行けるからと言うと、口をモゴモゴしながらスプーンを持ったまま笑顔で万歳した。
約束の時間前にBARに着いた。
年季の入った扉を開けると煙草と洋酒の混じった匂いがした。
カウンターの中にいるマスターは軽く頭を下げた。
恵美さんは一番奥にいた。
灰皿に置いた煙草の煙がライトに照らされ静かに揺らいでいる。
恵美さんはワイングラスをゆっくり回しながら、
「早かったじゃない」
と言い私を見た。
私は隣に座り、マスターにジントニックを注文した。
「お願いって何ですか?」と聞いてみた。
恵美さんはワインを口に含み、ゆっくりと飲んだ。
「ちょっと私の仕事を手伝ってほしいの」
と微笑んだ。
「どんな仕事なんですか?」
「そんなに慌てなくても、ゆっくり説明するから」
と笑った。
「ちょっと付いてきて」
そう言って恵美さんは席を立ち店を出た。
私は黙って付いて行くしかなかった。

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