36話「三年」

運動の日に外に出ると、微かだが子供の頃に感じた春の匂いがした。寒かった拘置所生活も峠を越え、幾分か過ごしやすくなってきていた。

今日はいよいよ論告求刑の日だ。  

覚悟をしているつもりでいたが、どこか期待している自分もいた。初犯なら執行猶予はまず間違いない――誰もがそう口にする。「執行猶予」という言葉を聞くたびに心が傾き、覚悟が鈍る。ここ数日、その繰り返しだった。

ガチャガチャと音がした。  

「25番出ろ」  

裁判所へ行く時間だ。いつものように猿回しスタイルで法廷へ向かう。

手錠が外され席に着き、判事の指示を待つ。  

「被告人、前へ」  

被告人と呼ばれることにも慣れてきていた。検事が長々と、いかに悪質であるか、罪名を並べ立てる。そして最後に言った。  

「被告人◯◯に懲役三年を求刑します」

三年……。

判事が検事に向かって言った。  

「ちょっと待って下さい。簡易は最高三年だったかな」  

分厚い本をめくりながら確認し、「最高三年ですね」と続ける。  

「弁護人、異議は?」  

弁護士はゆっくり立ち上がり、「寛大な処分をお願いします」とだけ述べて座った。

判決公判の日程が決まり、閉廷となった。

後で知ったのだが、私は前科もない初犯だったため簡易裁判所だったらしい。判事は簡易の上限刑をうろ覚えだったようだ。

裁判所からの帰り、刑務官が珍しく話しかけてきた。  

「お前三年きたらヤバいぞ。俺の経験上、まず実刑だと思うぞ。まあ初犯だから仮釈もつきやすいし、未決通算を引けば一年半もないだろうがな」  

静かにそう言われ、揺らいでいた覚悟が現実味を帯びてきた。

房に戻ると、すぐに井原君が結果を聞いてきた。  

三年と伝えると驚いた顔をした。  

「三年ですか……高いですね……」  

懲役用語ではないが、刑は安いか高いかで表現される。  

「最悪な検事に当たったんでしょうね。でもまだ分かりませんよ。温情判事かもしれないし」  

井原君はそう言って励ましてくれた。

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