35話「小さな見栄と輝く笑顔」

第四回目の公判も終わり、後は求刑と判決を残すところあと二回だ。

留置場から拘置所の拘禁生活も五ヶ月が過ぎた。

暴力団の人は見栄っ張りが多い気がする。というかほぼ全員だ。

普通の人があまり拘らないようなことに異常にこだわる。

例えば石鹸箱やタオルや筆箱などだ。拘置所で使用が認められた物は刑務所でも認められるので、身内以外でも面会や差入れができる拘置所にいる間に色んな物を揃えるのに一生懸命だ。

陣さんに聞いてみたことがある。とにかく人が持っていない物を持っていることが、一種のステータスになるらしい。入浴のときにシャネルなどの石鹸箱を使っていると、注目されるらしい。

井原君に聞いてみると、拘置所までは認められた私服なら着られるし、嗜好品も買える。でも刑務所に行くと暴力団の組長でもみんなと同じ服を着て髪型も坊主。

見栄をはるところがなくなる。だから、面会や手紙が定期的にある人や、人が持っていないような石鹸箱を持っている人は、一目置かれる存在になるらしい。

私は井原君に聞いてみた。

「もし執行猶予で出られたときは、好きな石鹸箱を差入れしようか?」

「えっ!本当ですか!いいんですか?」

普段はあまり表情に出さない井原君が、目を輝かせて笑顔になった。

「もちろんです。どんな石鹸箱がいいですか?探して買ってきますよ」

井原君はすごく嬉しそうに、「わあ、どんなのにしようかな。迷うなあ」と考えていた。

そんな井原君を見て、私もいつか石鹸箱が欲しくなる日が来るのだろうかと考えた。

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