2話「どこにも腰を下ろさなかった頃」

高校を中退して、料理の世界に入った。

見習いとして働き始めたその頃の自分は、働いているというだけで、もう大人になった気でいた。

仕事は真面目にやっているつもりだった。

その一方で同棲している女性がいながら、他にも何人かの女性と関係を持っていた。

当時の自分は、それを問題とは思っていなかった。

自由に生きているつもりだった。

そんな頃アメリカ•シカゴにあるフレンチレストランで働かないかという話をもらった。

正直、舞い上がった。

どこかに行けば、何かが変わる気がしていた。

結局、VISAの関係でその話は流れた。

行けなくなった時、思っていたほど落ち込まなかった。

今思えば、どこへ行くかより、自分がどう生きているかの方がずっと問題だった。

シカゴの話が完全になくなってから、料理の世界を辞めた。

理由をはっきりと覚えている訳じゃない。

続けられなかったというより、踏みとどまらなかった、という方が近い。

当時同棲していた彼女が、ラウンジで働いていた。

その流れで、自分もその店で働くようになった。

夜の仕事は、昼とは時間の感覚が違った。生活は成り立っていたし、特に困ることもなかった。

何人かの女性と同棲を繰り返しながら、水商売の仕事を何年か続けた。

住む場所も、人間関係も、その時々で変わっていった。

どこかに腰を下ろす必要はない、そう思っていた。

縛られずに生きているつもりだった。

今振り返ると、あの頃の自分は選ばないことを選んでいた。

何も決めなければ、何も引き受けなくて済む。

それを自由だと思っていた。

あの頃の生き方が、どこへ向かっていたのか、その時の自分はまだ知らなかった。

このあと、また女性との関係をきっかけに人生はさらに違う方向へ進んでいく。

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