その日の午後、午睡が終わり布団を片付けていると、お爺さんは自分の布団も片付けず、棚の前でゴソゴソしていた。
午睡止めの合図が聞こえたら、素早く布団を片付けないと怒鳴られ、叱責される。
私は担当さんの見回りが来たらまずいと思い、お爺さんに声をかけた。
「大丈夫ですか?」
するとお爺さんは、モジモジと言いにくそうにしてから、
「悪いけど……トイレに行きたいが、紙がない。少し分けてくれないか」
と言った。
「あっ、全然いいですよ。使ってください」
そう言って、私は自分のトイレットペーパーをそのまま手渡した。
その瞬間だった。
「おい!何やってるんだ!!」
運悪く、担当さんに見られてしまった。
有無を言わせず廊下に出るよう命じられ、別の担当さんに引き継がれると、そのまま三階へ連れていかれた。
ある部屋に入るよう命じられる。
取調室だった。
しばらくすると、初日に怒鳴られまくった、あの人相も風体も暴力団のような担当さんが現れた。
椅子に座るよう命じられる。
これから起きる流れを考えて、最悪だと思った。
「おい。お前はトイレットペーパーを同じ房の人間にやったのは間違いないのか?」
「あっ、はい」
「どのくらい渡したんだ?」
「トイレットペーパーを、そのまま渡しました」
「馬鹿が!何を渡したか聞いてない!量を聞いてるんだ!この低脳が!」
低脳……初めて言われた言葉だった。
「どのくらい……」
口ごもっていると、
「さっさと聞かれたことに答えろ!この馬鹿が!」
テーブルを叩いた。
「えーと……三分の二くらいです」
「最初からそう答えろ!低脳が!」
また、低脳。
「なんでトイレットペーパーを渡したんだ?」
「えーと……」
「コラッ!なんの理由もなく渡したのか!この馬鹿が!」
再びテーブルを叩く。
「お腹の調子が悪そうだったので……」
そう答えていると、
「お前が他人の心配をする立場か!このたわけが!」
たわけ……これも初めて言われた。
「他人が腹を下そうが、お前に関係あるのか!
お前は他人の心配より、自分の心配をしろ!この低脳が!」
そんなやり取りと叱責が、しばらく続いた。
担当さんは何をメモしているのか、黙ってノートに書き込み始めた。
このやり取りをすべて書いているのかと思っていると、
突然、顔を上げ、私をギロリと睨んだ。
「お前の罪名は不正授受だ。この件は会議にかける。結果は後日伝える。以上だ」
そう言い残し、部屋から出ていった。
不正授受……。
こんなことで取調べられ、怒鳴られまくる。
その後、元の房に戻され、ようやくホッとした。
お爺さんは気の毒なくらい謝ってきた。
「困ったときはお互い様ですから、気にしないでください」
そう伝えた。
井原君は、
「タイミング悪かったですね。ここは他の拘置所より厳しいですよ」
と言っていた。
井原君にしては、日常茶飯事のような口ぶりだった。
私は改めて、
拘置所という場所がどんな所なのか思い知らされた。

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